<<< 研究大会ニ戻ル
三田図書館・情報学会
2020年度研究大会

発表要旨

レポート執筆における情報メディアの選択:大学一年生から二年生への変化

発表者
岩瀬梓(慶應義塾大学大学院)
発表要旨
情報行動の一プロセスである情報メディアの選択に着目して文脈を整理することで,情報行動を説明することを試みる。そのために本発表では大学生のレポート執筆という場面に限定し,同一回答者への継続インタビュー調査に基づいて大学一年生から二年生の変化を明らかにする。分析に際しては,昨年度行った一年生を対象とした研究の成果を踏まえ,社会的文脈と個別の状況という文脈の階層関係を分析枠組みとする。分析の結果,一年生と二年生の変化の主要な要因は「経験」という社会的文脈であり,どのような経験が選択に影響するかがパターン化できることが分かった。一方変化が見られなかったのは,社会的文脈の中でも教員や課題の指示に従うというルールの認識が情報メディアの選択の前提となることである。オンライン授業の実施は,主に学習の物理的状況を制限し情報メディアの入手可能性を低下させるという個別の状況レベルでの影響を与えていた。

所有とアクセスからみた情報メディアの利用実態

発表者
吉田直輝(慶應義塾大学大学院)
岩瀬梓(慶應義塾大学大学院)
王雨晴(慶應義塾大学大学院)
胡童飛(慶應義塾大学大学院)
広江理紗子(慶應義塾大学大学院)
山岡加奈(慶應義塾大学大学院)
宮田洋輔(慶應義塾大学)
石田栄美(九州大学)
倉田敬子(慶應義塾大学)
発表要旨
情報メディアのデジタル化の進展により,物として所有することなく,様々な形で情報にアクセスすることが可能になった。音楽コンテンツではCD等の所有から有料聴き放題サービスへと人々の利用が遷移している一方で,書籍に関しては依然として冊子体での所有が一般的である。これまでに,デジタルコンテンツを中心とした所有の概念や所有とアクセスに対する意識を調査した研究が,マーケティング分野を中心になされているが,情報メディアごとの所有とアクセスの実態を明らかにしたものは見られない。そこで本研究では,小説,教養書や専門書,漫画,音楽を対象に,所有かアクセスかの利用行動について30項目,好みや利用頻度8項目,さらに機器の所有や利用,属性などをたずねるオンライン調査を,2020年9月に国内の成人1,030名を対象に実施した。その結果にもとづき,利用者を所有派とアクセス派に類型化することを試みる。

米中大学図書館における情報リテラシー教育に関する比較研究:ウェブサイト調査をもとに

発表者
劉倩秀(筑波大学大学院)
発表要旨
研究大学図書館における情報リテラシー(IL)教育の現状を明らかにするために、中国の137校と米国の174校を対象に、ウェブサイト調査を行った。その結果、米国の大学図書館は研究支援と授業との連携を重視する傾向があるのに対し、中国の大学図書館は学習支援としてのIL教育を重視することが明らかになった。また、情報リテラシーの授業内容とその形式は、教育機関の規模や教育目標に直結していることが分かった。米国の大規模な教育機関では、数多くの講習会を提供することに加え、図書館員が提供したワンショット科目関連指導やチュートリアルを教員が自分の授業に取り入れることができる。小規模な教育機関では、単位を取得できるILコースを学生に提供している。それに対し、中国の大規模な教育機関では独立科目型のIL教育に重きを置き、小規模な教育機関では、新入生教育を中心とした利用者教育がメインとなっている。また、中国と比べて、米国の大学図書館の戦略計画ではILプログラムが含まれている場合が多い。本研究の結果は米中のIL教育の教育目標、組織形態、実施体制、教育方法、教育内容、品質評価などの比較調査を通じて、IL教育プロセスのより深い理解を促すことが期待できる。

プログラミング活動の中の情報源としてのStack Overflow

発表者
田島逸郎(慶應義塾大学大学院)
発表要旨
プログラミングに関する質問回答サイトであるStack Overflow(SO)は,互いを知らない参加者同士がやり取りを行い,それがWeb上で公開され検索可能な情報源になるようなWebサイトである。しかし,その情報源としての特徴については,情報源の利用者としてのプログラマーにとっていかにして利用可能で有用な知識になっているのかという点では明らかになっていない。本研究ではこれを分析するため,プログラマーが実際の仕事の中でSOを含んだ情報探索を行った記録を利用する。分析はエスノメソドロジーの方針に従い,プログラマーがいかにして自身の理解を示すようなやり方で仕事を進めているかを記述する。その中でSOが情報源として,専門的なスキルや課題,他の情報源と関連した形で理解され,仕事を遂行する一連の活動の中に組み込まれている方法の一端を明らかにする。

潜在ディリクレ配分法を用いて並列コーパスから算出された単語の分散表現に基づく多言語文書クラスタリング

発表者
門脇夏紀(慶應義塾大学大学院文学研究科)
発表要旨
様々なトピックに関して各種の言語で書かれた電子的な文書が,インターネットを通じて広く利用可能になっている。このような文書の集合を一括してクラスタに分割することを,多言語文書クラスタリングと呼ぶ。本研究では,潜在ディリクレ配分法(LDA)により生成した単語の分散表現をこの多言語文書クラスタリングに適用する。具体的には,英語とイタリア語の2か国語から成る並列コーパスを活用し,LDAにより単語の分散表現を算出する。この分散表現を用いて,クラスタリング対象の各文書を重み付きCBOWとして表現し,k-means法でクラスタリングを実行することが本研究の提案手法である。その有効性をReuters Corpus Volume 2の英語記事およびイタリア語記事を用いて検証する。実際には,イタリア語記事を機械翻訳ソフトウェアで英語に翻訳することによる単一言語クラスタリングとの性能比較を行う。

闘病記の病名からのアクセスの可能性:国立国会図書館の調査を中心に

発表者
石井保志(国際医療福祉大学大学院)
発表要旨
闘病記は、図書館ではエッセイや医学に分類され、必ずしも書名から病名を推測できるわけではない。そのため、闘病記を病名から探すことが難しく、同病者の体験談へのニーズに対し、目録整備は十分とは言えなかった。そのような中、国立国会図書館では2007年6月以降整理分の闘病記に、件名として「闘病・看病」とその病名付与を開始した。この件名付与の方針変更により、闘病記を病名から検索することが可能となった。しかし、付与された病名数や病気別の出版点数は不明であり、病名から検索できる意義は明らかになっていない。そこで本研究ではNDL-ONLINEを用いて、「闘病・看病」の件名で検索可能な2007年6月以降の闘病記にどのような病名が付与されているか調査を行った。調査の結果、抽出した闘病記2,035冊から病名数が300種類以上であることがわかった。これらの病名を分析し、病名からのアプローチにより利便性が向上したかどうか検証を行った。

健康医療情報サービスとしてのブックリスト:資料展示におけるブックリストの分析から

発表者
阿久津達矢(慶應義塾大学大学院)
発表要旨
病院内に設置されている患者図書室は、インフォームド・コンセントの支援を主たる目的とし、患者・家族・一般市民への健康医療情報提供の重要な拠点として、これまで主に来院した人々へのサービスを行ってきた。しかし、こうしたサービスがどのようになされているのかを具体的に明らかにした研究はわずかしかない。本研究は、ある大学病院で実施されていた公開講座における患者図書室による資料展示の中で、その一環として作成され、配布されていたブックリストに着目し、展示場面をフィールドワークすることで得た観察データや関連資料、および、過去に行われた事例についての司書へのインタビュー結果を用いて、エスノメソドロジーによる分析を行った。その結果、司書は、選んだ資料へのナビゲーションならびに利用者がそれを用いて情報にアクセスできるようにブックリストを構成することによって情報サービスを実践していることが明らかとなった。

日本の公共図書館における高齢者サービスの変遷及び課題:文献の検討から

発表者
張心言(慶應義塾大学大学院)
発表要旨
高齢化の進む日本では、公共図書館が1970年代から利用者として高齢者に注目し始め、これまでに豊富な知見が蓄積されつつある。しかし、半世紀にわたる公共図書館の高齢者サービスは、その研究及び実践がどのように変遷しているのかについて、体系的に整理されていないのが現状である。一方、近年では、超高齢化社会における図書館サービスの再考が喫緊の課題として認識されるようになり、高齢者サービスの将来について考えるために、その発展の経緯を把握することが必要である。これを踏まえて本研究では、CiNii、カレントアウェアネス及び『図書館情報学研究文献要覧』から抽出した、1970年代から現在までの公共図書館の高齢者について書かれている文献に焦点をあてて検討する。その検討においては、日本国内の研究及び実践を振り返り、高齢者サービスの各時期における特徴やその変遷を把握しながら、超高齢化社会における公共図書館の課題を明らかにする。

戦前期の図書館学の研究動向について:「図書館雑誌」と「図書館研究」を対象にして

発表者
伊藤民雄(実践女子大学図書館)
発表要旨
戦前期に発行された日本図書館協会「図書館雑誌」(創刊1907年)の294号分、及び青年図書館員聯盟「図書館研究」(創刊1928年)61号分を利用して戦前期の図書館学の研究動向を調査した。両誌を編集した間宮不二雄は「図書館雑誌にはperiodicalの記事、図書館研究には研究的・量的な記事が掲載された」と述べている。また、先行研究では、「図書館雑誌」の書誌学の優先度の高さが指摘されていた。手法として両誌の総索引を利用し、主題件名が付与されたそれぞれ1,478論文記事、及び917論文記事を、12項目で分類し、7つの時代区分で分析を行った。その結果、両誌が時代的に重なる1928年~1944年を比較すると、「図書館研究」は総記と図書管理の分野の、及び「図書館雑誌」は各種図書館、書誌学を含む図書の分野の、論文記事がそれぞれ多く掲載傾向が異なっていた。また、書誌学については、間宮が編集者を務めた時代の「図書館雑誌」には全く掲載されておらず、その前後の時代は多かったが、徐々に少なくなっていった、ことが分かった。

公立図書館における中長期計画の現状:関東の市区立図書館を中心に

発表者
白木悠治(墨田区立ひきふね図書館)
発表要旨
 これまでまとまった調査がなされていなかった公立図書館の中長期計画に関し、全国の市区立図書館ホームページから該当計画を収集し、策定状況などを整理した。また計画策定の前提・プロセス・結果の三つの側面から設定した各要素をもとに、関東地区の計画内容を調査し、図書館の特徴との関係について分析した。  策定状況においては、全国の中では関東地区で策定割合が高いこと、計画を策定している自治体は未策定自治体と比較して、貸出密度などの数値が高かったことが判明した。計画の内容面においては、潜在利用者ニーズの把握不足、戦略適用の少なさなどの課題があった。また図書館サービスの施策体系は必ずしも構造化されておらず、重点事業の設定などが不足していた。  そうした中でも、改訂を経た計画や、行政全体としての関与が見られた計画においては、内容面で多くの要素が記載されており、より図書館経営に資する計画になっていることが明らかになった。

人口減少社会における小規模自治体の図書館活動推計のための基礎的分析

発表者
大谷康晴(青山学院大学)
発表要旨
人口減少による図書館サービスの変化を考察する基礎として2015年国勢調査確定値で人口3万人未満の図書館設置自治体(524)を対象に人口千人ごとに『日本の図書館 2015年版』の統計データを集計して,それぞれの人口段階の中央値を抽出して分析を行った。延床面積,蔵書冊数,受入冊数といった規模に関わる要素については人口段階に応じて緩やかに増大していく傾向が伺えた。また,人口1人当たり図書館費は逓減傾向にあった。これに対して,登録率,貸出密度といったサービス指標は,人口段階とは無関係な変動を示していた。以上の結果から,図書館の建物,蔵書については人口規模に対応した一定の共通認識があると考えられるので人口減少に対しては長期的には規模の縮小が図られると予想する。これに対して,サービス提供については自治体間で相当の格差があり,より少ない職員で適切なサービスを提供できるように標準化・平準化を進めていく必要があると考える。

公立図書館における新聞書評欄掲載図書の購入状況

発表者
吉井潤(都留文科大学非常勤)
発表要旨
公立図書館で選書を行っている職員が使用・参考にするツールのひとつとして新聞書評欄がある。司書課程のテキストにおいても同様の記述はあり、研究がなされている。だが、実際にどれだけ購入されているのかわからない現状である。本研究の目的は、新聞書評欄に掲載された図書は公立図書館ではどれだけ購入しているのか明らかにすることである。 調査対象の書評掲載図書は2019年4月から2020年3月までに読売、朝日、毎日、産経、日経、中日・東京新聞に掲載されたものとした(調査対象は4,198タイトル)。公共図書館の88.2%が(株)図書館流通センター(以後TRC)のTRCMARCを採用していることから、多くの公立図書館がTRCからも資料を購入していると想定した。TRCの「TOOLi」を9月3日に借用し、書誌データを取得した。その後、9月8日にTRC仕入部に発注データの借用依頼を行いデータを取得した。 結果、調査対象になった4,198タイトルのうち新聞書評欄掲載後にTRCに発注が無かったのは263タイトル(6.3%)と少なかった。1冊から50冊まで発注があったのは2,734タイトル(65.1%)と多く、51冊から100冊まで発注があったのは679タイトル(16.2%)、101冊以上発注があったのは522タイトル(12.4%)だった。以上のことから公立図書館の選書では新聞書評欄を参考に購入している傾向が見られた。

子どもの読書とメディアミックス:読書環境の変化に注目して

発表者
團康晃(大阪経済大学)
発表要旨
本論は毎日新聞社と学校図書館協議会が毎年行っている、子ども読書調査における、「最近読んだ本」の上位タイトルの変遷をもとに、子どもの読書環境と読書内容がどのような変化を遂げてきたのかを素描することを目的としている。  この変化における特質すべき点は、子どもが本を読むという時の背景には、子どもの読書を規定する様々な制度があり、特に2000年代に入ってからは、「朝の読書」と呼ばれる運動が重要な取組となっている。この取り組みでは、従来の国語科主導の教養や自己陶冶と結びついた読書ではなく、読書をすることで静かな教室を作り出すための(学校づくりの)手段としての読書が主導され、そのための生徒の「好きな本」選びが主導される。  その結果、子どもの読書量は2000年代以降、増えるのだが、同時にその読む本の内容は、ケータイ小説をはじめとしたメディアミックス作品が主たるものとなっていった。

PTAのなすべき読書推進活動はどのように見出されたか:長野県諏訪市PTA母親文庫の事例から

発表者
山﨑沙織(東京大学事務部)
発表要旨
長野県PTA母親文庫諏訪配本所は、1950年代から配本(本の回覧活動)を続けてきたが、1990年代に活動の軸を小学校での読み聞かせに移すと決定した。本論は文庫の会報を中心に活動転換の過程を検討し、①PTAの行う活動として配本より読み聞かせがふさわしいとされる理由はどのように見出されたか、②活動転換に伴い母親文庫での人的・物的ネットワークはどう変化したか、を問う。  検討の結果は以下である。①’配本と小学校での読み聞かせの違いは、PTA役員やボランティアが子どものために奮闘する姿を直接子どもに見せられるかに求められ、この点で読み聞かせは配本よりもPTA活動にふさわしいとされた。②’活動転換に伴い母親文庫をめぐる人々のつながりは子どもとの直接的な交流を促進するかという観点から再編された。また、母親文庫は手づくりの読み聞かせ資料の相互貸借やお話し会の開催を行うようになり、書籍の流通機関のみならず読み聞かせに必要なモノや技術のハブとして機能し始めた。

中国現存最古図書館「天一閣」に関する在日和漢文献調査

発表者
方承
発表要旨
【目的】中国の明の嘉靖年間(1522~1566)末ごろに建てられた天一閣は、現在、東洋文化研究界や世界の図書館界に前より認知度が上がってきている。日本では、いつごろから天一閣のことが認知されて、どの分野で天一閣が所蔵する漢籍文献が利用され、どのような研究成果の文献が蓄積されてきたかの実態を明らかにすることが、本研究調査の目的である。 【方法】1.「国立国会図書館サーチ」と国立情報学研究所のCiNiiという代表的な文献検索ツールを利用し、日本国内に所蔵する「天一閣」にかかわる和漢文献の書誌事項を調査する;2.調査文献の基準範囲を定め、検索結果である書誌事項の内容と特定の元文献内容を分析し、関連性により研究分野ごとに類別する;3.文献検索と分析により日本で所蔵する「天一閣」にかかわる和漢文献の全容を把握する。 【結果】(1)日本の江戸幕府時代には、天一閣の名が日本に伝えられてきて、明治の末ごろから天一閣に対する関心度を高めたことが判明した。(2)ただし、戦後の日中国交正常化までに日本の漢学者たちは、天一閣の扉に入ろうと思って入れなかった事実を明らかになった。(3)それ以降、日本の学者たちが、天一閣に対してより目を向けて、より研究利用してきたことが分かったが、天一閣の年代記載史実と最新の変容事情にはまだ解釈の誤りや理解不足があったことを察知した。

日本の図書館におけるOCLC WorldCatへの目録データ登録・利用の現状と課題

発表者
飛明奈(慶應義塾大学メディアセンター)
発表要旨
OCLCの提供する世界最大の目録データベースWorldCatは世界中で利用されているが,日本の図書館の利用は少ない。そこで,日本の図書館によるWorldCatへの目録データの登録及びその利用の現状を明らかにするため,WorldCatに目録データを登録している図書館を中心に,10機関に対し聞き取り調査を行った。 主に,WorldCatへの目録データの登録及び利用に対する目的,データ登録方法,利点及び問題点について調査を行った。その結果,WorldCatは,目録業務の効率化のみならず多様な目的において利用されるようになっていること,WorldCatへの目録データ登録方法は複数存在し,図書館は自らの目的に合った方法を選択し得ること,WorldCatへの目録データ登録にはデータ変換が必須であり,容易とはいえないこと,複数の図書館で行われている目録データの一括変換や一括登録により,誤ったデータ登録がなされてしまっており,登録機関でさえそのすべてを把握できていないこと等が明らかになった。