◆氏名 粟村倫久
◆所属 慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻修士課程
◆発表題目 
 情報行動研究の概念枠組みの構築:「情報遭遇」概念の学説史的研究を通じて
◆発表要旨
(1)研究目的
 「情報遭遇」(Information Encountering)に関わる議論の中で,この概念がいかなる経緯の下に形成されたのかという点は未だ明確に示されていない。概念形成の歴史的な面については,「掘り出し物的発見(Serendipity)」と「ブラウジング」の関連性への言及,及び「能動的な情報行動」を論じる中での受動的な情報取得の重要性への言及の2点とがしばしばなされてきたことが指摘されるに留まっている。
 本研究では,「情報遭遇」概念の形成を,「能動的な情報行動」・「ブラウジング」・「掘り出し物的発見」という3分野の研究動向の中に位置づけて学説史的に探求することを通じて,「能動的な情報行動」研究のみではとらえきれない人間の情報行動の多面性を理解するための概念枠組みを構築することを目的とする。
 具体的には,以下にあげる3点が検討課題となる。
・ 「能動的な情報行動」,「ブラウジング」,「掘り出し物的発見」等の諸概念に関わる研究が進展する中で,「情報遭遇」の研究がどのように課題として浮かび上がってきたのか
・ 「情報遭遇」という概念のどの部分が過去の議論に影響を受け,また共通しているのか
「情報遭遇」という概念に関わる議論のどの点が固有で,従来の情報行動のとらえ方と異なり,意義があるのか
(2)研究手法
 文献調査を主な研究手法とする。対象とする文献は以下の3つの研究分野に属するものである。すなわち,「能動的な情報行動」に関する研究,「ブラウジング」に関する研究,そして社会学を中心とした社会科学全般における「掘り出し物的発見」に対する言及や研究である。
 こうした文献を対象とし,「情報遭遇」に関連する言及を抽出する。そして,まず,抽出した言及を分野毎に分けて年代別にまとめ,各分野における“縦”の学説史を構築する。次に,この3本の“縦”の学説史に対する詳細な検討を行うことにより,各分野の議論の相互の関連性や影響を見出す。そして,そこからどのように「情報遭遇」の議論が発展してきたのかを描き出す。 以上の分析の下,95年に初めて提示された「情報遭遇」という概念に至るまでの学説史を提示する。また,その過程における概念整理を元に,これまでの議論の不備な点を具体的に指摘し,今後の「情報遭遇」の研究課題を提示する。
(3)予想される成果
 情報行動研究において,能動的な情報行動の概念化は主たる研究課題であり続けてきた。一方,概念化の進展の中で,その概念では説明しきれない現象が存在することも認識されてきた。また,関連分野においても,そのような現象に関わる議論は行われてきた。すなわち,「情報遭遇」概念の形成は,無から生じたものではなく,能動的な情報行動の一定の概念化とそのような問題意識の蓄積の上に成り立つものであった。
 上記の議論の発展経緯を検討し,議論の各時点において論じられていた点,そして議論が不十分であった点を明らかにする。そして,この新たな観点からの概念整理を基にした,今後の情報行動研究各分野の研究対象やその課題に関わる枠組み構築の方向性と展望を論じる。
◆氏名 三根慎二
◆所属 慶應義塾大学大学院文学研究科
◆発表題目 
 学術情報流通における大学図書館の位置づけと評価:慶應義塾大学を対象とした事例調査
◆発表要旨
(1)研究目的
 学術情報流通は,これまで基本的に研究者,大学図書館,学協会,出版者から構成されてきた。特に,大学図書館は,学術情報と研究者を結びつける機関として研究者の研究活動やコミュニケーションを支えてきたと経験的に考えられる。1970-80代以降,学術情報の一つの要である学術雑誌の入手を,研究者は個人購読から図書館の機関購読へと変化させていると言われる。その一方,学術情報流通の電子化という流れの中で,あえて図書館が学術情報を提供する必要はないという大学図書館不要論といった議論もあり,これらは大学図書館に対する評価やその存在意義を問う問題である。
 大学図書館を評価する際の目的とそれに対応する指標は多様であるが,本研究は,大学図書館内部に焦点を当てるのではなく,学術情報流通の中の一構成要素として大学図書館をどのように位置づけ,評価することが可能なのかを試みることを目的とする。これは,不要論に見られるように,学術情報流通を構成する他の要素との関係の中での問題である。大学図書館内部だけを見ていては評価することは不可能で,学術情報流通全体の中に位置づけて考える必要があるからだが,こうした視点からの試みが十分に行われているとは言いがたい。近年の大学評価やオープンアクセスといった流れの中で,大学図書館の位置づけあるいは存在意義を改めて問うことの必要性は小さくないと思われる。
 その際の枠組みとして,学術情報流通を生産性という観点から,インプットとアウトプットを一つの指標として用いることで評価を試みる。つまり,学術情報流通に関わるどのような要因が,成果を生み出すことに貢献しているのか,特にその中でも大学図書館のそれを測定することを試みた。 
(2)研究方法
 実際の調査として慶應義塾大学(理工学系)を対象に,予備研究を行った。インプットおよびアウトプットには,以下を主たる調査対象項目とした。
インプット
・科学研究費取得数および総額
・大学院生数(各研究者の研究室所属の院生が判明する場合も含む)
・大学図書館の所蔵蔵書数
・冊子体および電子ジャーナル(判明分)の雑誌タイトル数(物理学分野のコアおよび周辺のジャーナル)など
アウトプット
・論文の生産性および非引用数
 まず,これらの概念的な関係を整理し,仮説的なモデルの構築を行った。次に,上述した各変数を大学が提供している各種統計やWeb of Science等を用いて調査し,それらの間の相関を見ることで,どのインプットがアウトプット(研究者の生産性)に影響を与えているかを見た。
(3)得られた(予想される)成果
 実態調査から得られたデータをもとに,仮説モデルの妥当性や修正すべき点などを明らかにする予定である。
◆氏名 江藤正己
◆所属 慶應義塾大学大学院
◆発表題目 
 列挙形式で引用された論文間の類似特性
◆発表要旨
【研究目的】
 論文本文での引用記述の中には,1つの箇所で複数の論文を列挙して引用するものがある。このような形式の引用記述を共引用関係にある論文に着目して捉えた場合,「論文執筆者が,列挙形式で引用した全ての論文を,引用文の文脈において同一のものとして扱った」と見ることが出来る。この発想に基づくと,同一箇所において列挙形式で引用された論文間の類似度は,列挙形式以外で引用された論文間の類似度よりも強い可能性があると考えられる。また,列挙形式で引用された論文間の類似は,従来の共引用が示す類似と比べて,その類似の関係の種類(方法論としての類似など)を特定することが可能であると予想される。なぜなら,引用文の文脈が引用された論文の類似理由について言及していると考えられるからである。例えば,「method」が引用文に含まれている場合,引用された論文は方法論の点で類似している可能性が高い。
 以上のような考えに立ち,本研究では,同一箇所で列挙された論文間の類似特性について分析する。列挙形式の引用は,「執筆者が判断した,類似性の高い論文の組」という論文同士の関係を示す情報であるにもかかわらず,これまで検索システムに活用されてこなかった。この情報を分析することで,類似論文の検索の一助になると考えられる。
【研究方法】
 ペンシルバニア州立大学で公開されている科学技術論文データベースCiteSeerの論文メタデータを利用する。このメタデータには,CiteSeerが収録している論文の一般的な書誌情報,引用情報,論文本文のURLが含まれている。
 まず,このURLを用いて本文を入手する。次に,入手した本文を用いて,列挙形式で引用された論文の組を特定する。その後,以下の分析を行い,列挙形式で引用された論文間の類似特性を明らかにする。
 1. 列挙形式で引用された論文の組と列挙形式以外で引用された論文の組の類似度をそれぞれ測定し,比較する。類似度は,主として論文に含まれる語の共出現数によって測定する。
 2. 列挙形式の引用を行った引用文に含まれる語,及び引用された論文に含まれる語に基づいて,引用された論文間の類似関係の類型化を行う。これにより,列挙形式で引用された論文間にどのような類似関係の種類(方法論等)が存在するのか特定を試みる。また,列挙形式で引用された論文に対して,その引用に該当する類似種類に着目した類似度の測定を行う。
【予想される成果】
 列挙形式で引用された論文間の類似強度と列挙形式以外で引用された論文間の類似強度の比較関係が分かる。また,列挙形式で引用された論文間に存在する類似関係の類型化の可能性についても明らかになる。
◆氏名 鴇田拓哉
◆所属 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
◆発表題目 
 電子資料を対象にしたFRBRモデルの展開
◆発表要旨
(1)研究目的
  IFLAが提案した「Functional Requirements for Bibliographic Records(FRBR)」で示されているモデル(FRBRモデル)のように,目録の世界(対象資料)を概念レベルで捉え,それをモデル(概念モデル)として表現するアプローチは以前から行われている。その際に,モデルの利用目的(実際の作業における要求)を忠実に表現できるようなモデルを作成する ことが必要である。また,対象資料の特徴を反映したモデルを作成することが望まれる。
  本発表は電子資料に焦点を当てた概念モデルについて検討する。冊子体資料だけでなく 電子資料やその他の資料を対象としているFRBRモデルや,電子資料に対象を絞って FRBRモデルを参考にして提案されたモデルは,必ずしも電子資料の全ての特徴を反映したものであるとはいえないのが現状であろう。
  本発表を通しての最終的な目標は,電子資料のタイプ(パッケージ系・ネットワーク系)を柔軟に表現できることに加え,対象資料が持っている構造(論理構造)とファイルの構造(物理構造)の関係を適切に表現できるような概念モデルを作成することである。モデルの 作成にあたり,FRBRモデルを出発点として検討していきたい。
  本発表の目的は,上述した2点の要件について,FRBRモデルでどの程度考慮されているか(表現することが可能であるか)を検討することである。ただし,本発表では実体レベルでの議論を行い,属性および関連に関わる部分の議論は最小限のものとする。
(2)研究方法
  最初にFRBRモデルで示されている4つの実体(Work,Expression,Manifestation,Item)に対して,それぞれの実体の設定意義や他の実体との関係を確認する。そして,先ほど挙げた2点の要件について,FRBRモデルで示されている範囲内で検討を行う。
(3)得られた(予想される)結果
  2つの要件のうち,前者についてはManifestationの捉え方が問題となろう。この実体は, 記録媒体(キャリア)を伴っていることが前提とされていて,ウェブ上の資料のようなキャリアを伴わないネットワーク系の資料を柔軟に表現しているとはいえないと思われる。そこで,Manifestationではなく,Work,Expression,Format(Expressionがある形式で固定化されている状態),Item(Copy),Carrierという実体で構成される単純なモデルを提案した。
  後者に関して,FRBRモデルではExpressionとManifestationのそれぞれの実体における全体部分関連およびExpressionとManifestationの関連部分が該当するといえる。しかし,FRBRモデルではこれらの関連について十分に議論されていない。そのため,本発表ではこの議論の出発点として,その重要性について可能な範囲で例を挙げて述べることにしたい。
◆氏名 高橋昇
◆所属 九州女子大学人間科学部
◆発表題目 
 法情報専門職に求められる要件ならびにその養成−LIPER横断的研究報告−
◆発表要旨
(1)研究目的
 司法制度改革に伴い,弁護士人口の大幅増員,弁護士事務所の執務態勢の強化,弁護士の国際交流の推進,外国法事務弁護士等との提携・協働,法曹養成段階における国際化の要請への配慮が求められている。さらには,刑事裁判に国民が参加する裁判員制度や,労働事件について労使の代表が審判員として参加する労働審判制度の導入等が始まろうとしている。増大する弁護士,裁判員への法情報提供はもとより,社会のグローバル化にともなう外国法の情報提供,さらには情報通信技術導入による法情報提供の変化と法律図書館を取り巻く環境は大きく変化してきている。そのような業務の高度化,提供するサービスの拡大に反比例して職員の削減はさらに進もうとしている。そのような状況下で,法律図書館を担う情報専門職に必要な専門的知識や技能に対する認識を把握し,「法情報専門職」に求められる要件を検討する。そして法情報専門職の養成および研修に際してどのような機関が担当するべきか,法情報専門職の質を維持するための方策について明らかにしようとするものである。
(2)研究方法
 米国の法律図書館員と同様な有資格者を想定する事のできない日本では,法学部出身者でかつ司書課程の修了者が,法律図書館において求められる知識と技能を持つものであるのではないかと考える事もできる。しかし法律図書館においても,勤務者の中に法学部出身者が占める比率はかなり低いのが現状である。そこで司書資格を有する者が,図書館で業務に従事しながら各種の研修会や講習会に参加することで,法律図書館において求められる知識・技能を獲得して行くのがより効果的であるという仮説のもとに研究を行おうとしている。法律図書館連絡会加盟機関ならびに法科大学院図書館のレファレンス担当者合計158名に対する質問紙調査を行った。この調査で得られた結果をもとに,回答者の中から養成教育の改善点に意見を記入した者を中心とした10名に対して訪問インタビューによる調査を行う。
(3)予想される成果
 質問紙調査は158通に対し,87票(55%)の回答を得た。これらの調査から法情報専門職に求められる知識・技能について,@知識・技術(A.資料・メディア,B.サービス,C.その他)の必要度,A知識・技術の習得についての枠組みを得ようとしている。得られた結果について,最終学歴による視点の違い,学んだ主題領域による観点から分析を行う。さらに質問項目以外に必要とされる知識・技術,さらには養成教育の現状,改善点等についての意見も集約する。しかし上記の数値のみでは,日本の法情報専門職に求められる知識・技術,さらにはその養成についての知見を得ることはできない。そこで10図書館の10名に対し,得られた数値データを事前に送付した後,訪問インタビュー調査を実施し,それらのデータに検討を加えながら仮説に対して検証を行う。その中から,法情報専門職に求められる要件はいかなるものか,また効果的な養成方法についても検討を加える。本発表では,両調査をもとに総合的に分析した結果を報告する。
◆氏名 辻慶太,吉田右子,三輪眞木子,竹内比呂也,村主朋英,柴田正美
◆所属 国立情報学研究所,筑波大学,メディア教育開発センター,千葉大学,愛知淑徳大学,帝塚山大学
◆発表題目 
 司書資格科目担当教員に対する意識調査
◆発表要旨
 情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究(LIPER)の一環として,日本の大学における図書館情報学教育担当者の現状を明らかにする目的で,質問紙調査(郵送・無記名)を行った。調査対象者は,2004年度に大学で司書課程・司書講習を担当した専任・非常勤教員で,調査項目は (1) 担当者のプロフィール・担当科目,(2) 教育目標及び図書館員に必要と考えるスキル,(3) 図書館情報学教育の現状・問題に関する認識,である。有効回答者は397人で,回収率は約45%であった。
 結果,担当者のプロフィールとしては男性が多く,全体の73%を占めた。年齢は50歳以上が63%を占め,また教員経験年数は10年未満が62%を占めたことから,図書館に長年勤務した後,教員になった者が多い可能性が示された。専任・非常勤としての勤務校は共に四年制私立大学が最も多く,約半数を占めた。図書館実務経験に関しては,大学図書館経験者が最も多く,全体の38%を占め,次いで実務経験の無い者が26%,公共図書館経験者が22%を占めた。専任として勤務している機関の課程種別としては,司書課程が最も多く,全体の48%を占め,次いで図書館情報学以外の専門課程が19%,図書館情報学の専門課程が12%を占めた。 教育目標としては,図書館の利用方法を含む基礎的な情報リテラシーの修得や,図書館業務に対する理解が重視されていた。また図書館員に必要なスキルとしては,レファレンスサービス,個人情報保護や著作権に対する理解,情報検索,コミュニケーション能力が上位に挙げられた。
 回答者のプロフィールとその他の調査項目に関していくつかのクロス集計を行ったが,先述の図書館実務経験の有無によって,必要と考える図書館員スキルが異なるかを調べたところ,実務経験者は非経験者にべて,書誌学,出版流通,英語を有意に重視していることが示され,先述の大学図書館員としての洋書目録経験の影響が考えられた。逆に非経験者は経験者に比べて,インターネット情報の組織化,資料保存・保護・製本を有意に重視しており,図書館の理念的機能を中心に考えている可能性が示された。また同様に,先述の司書課程所属者と図書館情報学専門課程所属者とで,必要と考えるスキルが異なるかを調べたところ,後者は地方公共団体の行財政や経営管理など,経営者としての視点を重視する傾向が見られた。
 また図書館情報学教育の現状・問題点を問う自由記述に関して,人(教員,学生,図書館専門職),教育・研究(カリキュラム,教育プログラム,教育目標,研究),その他(資格,就職,取り巻く環境)に分類し,内容分析を行った。その結果,担当者の図書館情報学教育に対する多様な考え方が浮き彫りになると同時に,カリキュラム,教育プログラムに関わる問題点,教育目標に関わる理念について,共通点が明らかになった。
◆氏名 杉江典子
◆所属 駿河台大学文化情報学部
◆発表題目 
 公共図書館におけるレファレンスサービスの利用者像:半構造化インタビューによる基礎調査
◆発表要旨
(1)研究目的
 発表者のこれまでの研究から,我が国の市町村立図書館では,図書館サービスの先進地域であっても利用者の情報ニーズや利用に備えたレファレンスサービスがあまり行われていないことが明らかになっている。このことは,公共図書館が,利用者がどのような情報ニーズを抱き,図書館でどのようにして情報を入手しているかを十分に把握しきれていないことを示唆している。本研究では,我が国の公共図書館において,図書館側が用意しているサービスや環境に対して,利用者がそれらをどのように利用して自分の求める情報を入手しているのかを明らかにすることを目的とする。本調査では,それらを解明するために必要とされる調査の全体像,調査対象,適切な手法などを検討するための基礎的材料を得ることを目的としている。さらには仮説と調査結果の分析の観点を導くことを目指している。
(2)研究方法
 上記のような目的を達成するために,2005年7月より公共図書館の利用者への半構造化インタビューを行っている。本研究のような,事前に質問項目を明確に設定しにくい,探索的,発見的な研究には,直接利用者から情報を聞き出すことができるこの手法が最適であると考えた。
 インタビューは,1時間から2時間程度とし,図書館内の応接室において,調査者と調査対象者のみで行っている。インタビューの内容は,テープレコーダーとICレコーダーで記録し,音声をテキスト化し,インタビュー中の調査者による記録と合わせて,分析の材料としている。利用者が図書館で行う情報探索には何かパターンはあるのか,あるいは特徴的な行動はあるのか,について分析を行っている。インタビューは一名ずつ行っており,調査と同時進行で,終了したインタビューの文字化と分析を進め,得られた知見を次のインタビューに生かすという手順で行っている。
 利用者への主な質問内容は@調査対象者に関する基礎的情報,A日常の図書館利用,B日常図書館でどのような情報探索を行うことが多いか,C情報入手までの具体的なプロセスと使用したツール,Dサービスやレファレンスコレクションを認知しているかとし,会話の中からこれらを引き出せるように質問を行っている。
 調査対象者は,利用者が図書館内で情報探索をする際に,できるだけ制約のないような環境が整った図書館であることを条件として考え,関東地方の奉仕対象人口約40万人の市立図書館の利用者とした。図書館でどのようにして情報探索を行っているかを把握する必要があるため,図書館を日常的によく利用している利用者であることを条件に,調査に協力してもらえる利用者の紹介を図書館に依頼した。現在3名へのインタビューを終えている。
(3)予想される成果
 本調査により,公共図書館利用者の図書館でどのように情報探索を行っているかの一端を明らかにでき,今後の調査の仮説と分析の観点を導くことができる。さらに今後の調査の全体像,調査対象,適切な手法などを検討する材料を得ることができると考えられる。
◆氏名 荻原幸子
◆所属 専修大学経営学部
◆発表題目 
 住民セクターに対する公共図書館の認識の変遷:1960年代から現在まで
◆発表要旨
(1)研究目的
 今後の公共図書館経営における展望を検討するにあたり,発表者はこれまでに,行政学的観点から今日的な統治システムとされる「ガバナンス」概念にもとづき,対等関係を基軸とした図書館・住民セクター間の新たな関係性の構築を提案し,図書館業務について個別に検討していく必要性を指摘した。本研究では引き続き公共図書館と住民セクターとの「関係性」を研究対象とするが,研究の焦点は,これまでの両者の関係の蓄積や経験について,特に図書館側の住民セクターに対する認識(図書館関係者が住民セクターをどのように捉えてきたか)についての歴史的経緯を明らかにすることである。
(2)研究方法
 公共図書館は地方自治体により設置・運営されている組織の一つであり,図書館サービスは福祉や消防などの公共サービスと同種のものとして捉えることができる。この観点から,自治体行政の活動を「総論」とし,図書館経営論を「各論」とする枠組みを設定し,実質的に今日の公共図書館に至る動きが開始した1960年代から現在までの動向について,
@まずは,行政活動(政策立案(決定)・執行・評価過程)における住民に対するアプローチについての時系列的な変遷を,行政学において様々にまとめられている関連文献を整理することにより辿る。
A次に,図書館の住民に対するアプローチの時系列的な変遷を,主に図書館関連の雑誌記事(論文)から図書館関係者の住民に対する見解が示された記述を採取し,これを分析・整理することにより辿る。
B最後に,@に対するAの動向を検討することによって明らかとなる,図書館の住民セクターに対する認識について考察するとともに,ガバナンス時代における図書館と住民セクターのあるべき関係性の構築に向けた今後の課題を提示する。
(3)得られた(予想される)成果
@行政活動については,革新自治体首長による住民参加概念の萌芽(1960年代)→高度経済成長期における基本構想の策定やコミュニティ行政による住民参加制度の模索(1970年代前半)→経済低成長期における日本型福祉社会論や都市経営論に基づく住民参加機会の拡大(1970年代後半以降)→経済低迷期における「協働」「パートナーシップ」等をキーワードとした新たな施策の登場(1990年代以降),といった変遷が見られた。
A図書館関係者については,図書館設置運動における協調的関係→住民を運営主体とするコミュニティ図書館に対する批判→委託への批判における協調的関係→住民のボランティア活動と図書館員との関係の模索,といった変遷が見られた。
Bたとえ経済状況の悪化に基づく行政改革がその根底にあるとしても,行政は住民に対して,サービス受益者(顧客)という捉え方から,政策立案(決定)および執行過程の双方に関わるステイクホルダー(利害関係者)としてその存在を認識するに至っている。一方で図書館側は,図書館設置や委託などのアドホックな政策立案過程においては一貫して住民セクターをステイクホルダーとして捉えているものの,日常の図書館運営全般においては住民をサービス対象者(受益者)として認識するに留まっている。すなわち,政策立案および政策実施過程において,住民セクターの存在をステイクホルダーとして捉える認識が希薄であることが,今日のガバナンス時代の公共図書館経営にとっては解決すべき重要な課題の一つであると提起することができる。
◆氏名 須賀千絵
◆所属 慶應義塾大学文学部(非常勤)
◆発表題目 
 英国の公共図書館における『将来への枠組み』の有効性
◆発表要旨
(1)研究目的
 2003年に英国の文化・メディア・スポーツ省は,今後10年で達成することをめざす公共図書館の将来像『将来への枠組み』を刊行した。この中で公共図書館の使命として,読書と学習の振興,電子的サービスへのアクセス,社会的包含の実現の3つが示され,公共図書館関連の政策や補助金は,これらの使命に結びつけた形で再編成されている。本研究の目的は,この将来像の特徴を明らかにしたうえで,これらの使命を達成するためのメカニズムを分析し,現在の英国の図書館が抱える課題を解決するうえでの有効性を検証することである。
(2)研究方法
 本文書をはじめ,行政文書,研究論文,図書館関連団体の機関誌の記事など,関連する諸文献の分析を中心とする。英国の公共図書館員に対して,公共図書館の現場で抱えている課題や『将来への枠組み』への認識などについてインタビューを実施し,文献分析の結果を補足する予定である。
(3)得られた(予想される)成果
 3つの使命のうち,読書と学習の振興と社会的包含の実現は,国民の教育レベルの底上げや,社会的包含によって,英国経済の再生をめざす労働党政権の政策にリンクした内容であり,図書館のサービス改善を進めるうえで,他の行政政策と連携がとれる可能性も大きい。電子的サービスへのアクセスは,「市民のネットワーク」事業を意識したもので,これまでの図書館活動の成果をふまえた内容になっている。しかしそれぞれが既存の行政改革や図書館活動と結びついている反面,個々の使命間の関連が薄いことから,全体として,この政策がめざす図書館像が見えにくいことを明らかにする。
 次に,『将来への枠組みの活動計画』と監査委員会による公共図書館評価のしくみに着目して,『将来への枠組み』に示された使命を実現するためのメカニズムの検証を行う。『将来への枠組みの活動計画』については,内容を整理して,事業の実施可能性の調査や評価手法等の調査研究などの内容が多く,実際の活動を始める以前の段階の支援策となっていることを明らかとする。また監査委員会による図書館評価制度の変遷を分析して,『将来への枠組み』の内容との直接的な結びつきがあまり強くないことを示す。これらのメカニズムの分析を通し個々の自治体の取り組みの方向が統一されにくく,全国的な取り組みとすることが難しいという問題点を指摘する。
 これらの分析をもとに,貸出冊数が急激に低下するなど,図書館離れが進んでいるといった,現在の英国の公共図書館の課題を示したうえで,『将来への枠組み』は図書館の重要性を図書館界内外にアピールする機能を果たしているが,課題を根本的に解決しうるかどうかについては疑問が残ることを明らかにする。
◆氏名 三輪眞木子,神門典子
◆所属 メディア教育開発センター,国立情報学研究所
◆発表題目 
 コミュニティ志向の時間・空間オントロジーの研究
◆発表要旨
(1) 研究目的
 本研究の最終目標は,マルチメディア電子文書コレクションを組織化する上で,関心や価値観を共有しつつ相互作用を行う人間集団としてのコミュニティに最適な情報アクセス・インターフェイスを開発するための新たなアプローチを模索することである。
 個人の有するオントロジー(アイディア間の関係構造を描写する枠組み)は,世界に関する知識を伝達・共有する上で知識を有用な形で組織化するために個々人が創造し,新知識を獲得することで変化する。本研究では,個人の有するオントロジーをコミュニティ構成メンバーから抽出するとともに,コミュニティが共有するオントロジーとして統合するための手法を探求する。
 人間が視覚から知識を獲得する際に,全体を眺めながら入力として識別された対応するもののみを抽出するが,その際の見る行為における最小限の意味ある視覚形態は「イメージ(image)」と呼ばれる(Bertin, 1967, p.1)。イメージ概念は,物理的世界での見る行為だけでなく,人間が心の中で見る無形のものにも拡張できる。ブラウジングの機能的な構成要素に関する研究において,Kwasnik (1992, p. 194)は,分析単位として視点(view)を用いることを提案している。認知的世界に拡張された「視点」概念を,ある価値システムに立脚した固有のオントロジーを概念的に代表したものと捉えると,同一の視覚環境に直面したときに人によって異なるものを「見る」とみなすことができる。ある人が「視点」に見るものは,その人の現行の感覚にとらえられた対象物ないし対象群である。これを情報検索の文脈でとらえると,ある人が情報を検索しているとき,検索者の目にとらえられた情報の切れ端は,その人の内的オントロジーに基づく価値観や知識構造を代表する。この考え方を,関心や価値観を共有しつつ相互作用を行う人間集団としてのコミュニティに拡張すると,ある特定の利用者コミュニティの背後にあるオントロジーにフィットする情報検索インターフェイスを構築することで,そのコミュニティにおける情報検索プロセスを最適化することが可能になるだろう。
(2) 研究方法
 本研究は,時間・空間に関するオントロジーを事例として取り上げ,大学生を被験者として以下の3段階でデータを収集・分析する。
段階1:特定ドメイン(歴史・地理)において被験者(学生)が共有する関心事を抽出(アンケート法)
段階2:被験者(学生)が共有する関心事の探索プロセスにおける視点(view)を抽出(インターネット上で特定ドメインの関心事を探索するプロセスにける,@探索者の頭に浮かんだ思考や感情を発話思考法により抽出してビデオに記録,A画面の変遷と視線(gaze)の移動を記録,Bビデオ記録(@)と画面変遷・視線記録(A)の質的分析に基づき,被験者(学生)の視点(view)を抽出
段階3:段階2で得た個々の被験者の視点(view)を,被験者群が共有するオントロジーに統合
(3) 予想される成果
@個人の視点を抽出する手法
A個人の視点をコミュニティが共有するオントロジーに統合する手法
Bコミュニティ志向の情報アクセス・インターフェイスへの提言
◆氏名 海野敏,影浦峡,戸田愼一
◆所属 東洋大学,国立情報学研究所,東洋大学
◆発表題目 
 近代的主体の成立と図書・図書館による近代の存立
◆発表要旨
(1)研究目的
 本研究の目的は,近代的主体の成立と,図書というメディアおよび図書館という社会制度との呼応関係を手がかりとして,近代社会における図書館の存在意義と社会的機能を理論的に考察することである。
(2)研究方法
 そのために,哲学における主体論,権力論の文献,社会学における共同体論,近代化論,メディア論の文献,図書館情報学における図書館史,公共図書館論の文献などを対象として,批判的な読解と分析的な整理を行った。
(3)得られた(予想される)成果
 人間社会の歴史的変化を前近代から近代への二分法で捉えることは,現在の人文・社会科学における了解事項である。近代の本質的特徴は論者によって異なり,見解は一致していないが,図書館のような社会制度の存立を考察するにあたっては,近代の本質を「行為主体としての〈個人〉の成立」とするのが妥当である。なぜなら,私有財産制と自由市場という経済システム,基本的人権の尊重と個人の責任追及という法システム,民主主義と選挙制度という政治システム,自由と自己実現の追求という価値システム等のいずれも,〈個人〉=近代的主体の成立が前提となった社会制度だからである。この〈個人〉は,ミシェル・フーコーの言う「経験的・超越論的二重体」であり,すなわち自己を特権的に制御できるメタ自己の成立を前提としている。
 まず,メディアを「人間どうしがメッセージを伝達するための社会的な機制」と定義し,メディアを介して〈個人〉が成立し主体が維持されるためにそのメディアが満たすべき条件を明らかにする。あらゆるメディアをこの条件に照らし合わせて比較分析し,図書,とりわけ印刷本が〈個人〉を再生産(育成)するためのメディアとして特権的な位置にあることを示す。
 図書が〈個人〉の再生産において特権的であるとすれば,図書を媒介項とする情報・知識の社会的流通のしくみである出版流通制度と図書館制度が特権的な位置にあるのは明らかである。さらに近代的な図書館は,その歴史的経緯と実態を鑑みれば次の三つの理念を有している。
 ・利用者の自発性:能動的にのみ利用される。
 ・コレクションの完全性:網羅的収集と永久保存が目指される。
 ・サービスの普遍性:全市民が無料で利用できることを原則とする。
 利用者の自発性,コレクションの完全性,サービスの普遍性を理念としている限りにおいて,図書館は〈個人〉を再生産するための制度として,出版流通制度よりもさらに特権的な位置にある。なぜなら,出版流通制度は完全性と普遍性を欠いているからである。この主張は,ほかのあらゆるメディアと比較分析することによって補強することができる。
 近代図書館は公教育と並んで,〈個人〉を単位とする社会制度を成立させるために〈個人〉を再生産するための「メタ制度」と位置づけることができる。ただし公教育は利用者の自発性いかんにかかわらず発動するのに対し,近代図書館はメタ自己の成立における自発性を重視するものでありその意味では,現実的効果は別にして,近代図書館は近代を存立させる社会制度の理念を最も強く体現しているものと結論できる。
◆氏名 池内淳
◆所属 大東文化大学文学部
◆発表題目 
 サイバースペースにおけるフェアユース概念の存立構造:情報学研究,及び,情報政策との接点
◆発表要旨
(1)研究目的
 罪刑法定主義に内在する問題として,法の欠缺とその補完という論点が指摘される。その一つは,共同体内において,犯罪と認定される蓋然性の高い行為に対して,法的措置を執ることが困難であるという場合。もう一つは,その対偶事象であり,共同体内において,許容される蓋然性の高い行為に対して,法が無自覚に禁止している,あるいは,明示的に許していない場合である。本研究では,こうした問題のうち,サイバースペースの著作権に関するフェアユースという問題に焦点を当てる。
 こうした法の硬直化を回避するために,米国に代表される複数の国々において,著作権侵害訴訟の抗弁の論拠となるフェアユースについて勘案すべき観点を掲げるとともに,法廷における逐次解決を図っている。翻って,我が国では,権利制限が逐条的に規定されており,法廷に委ねる制度的・慣習的土壌が存在しないという見解から,フェアユースの法理を導入することに対する慎重論が多く,現状では,権利の濫用,社会通念,公序良俗,信義誠実の原則等によって,それを補完している。
 但し,上記の二つの問題のうち,前者については,我が国においても,これまで頻繁に議論され,立法化にまで到達した事例が幾つも存在する。その一方で,後者については看過されがちである。それは言うまでもなく,親告のインセンティブが薄弱であり,国内外を問わず,法解釈の拠り所となる判例が極めて少ないということに起因する。
その結果,法整備がさらに立ち後れるとともに,著作権を過剰に主張する者や著作権の利用に対して過剰に消極的になってしまう者とを生ぜしめ,一種の混沌とした状況を招いているように見える。そこで本研究では,主に法の欠缺のもたらす許容可能性の高い事例を観察することによって,サイバースペースにおけるフェアユース概念の存立構造を,明らかにし,我が国の著作権法との摺り合わせを試みる。
(2)研究方法
 我が国の著作権法の権利制限規定,また,その準拠法となる国際条約,さらに,米国1976年著作権法第107条のフェアユースの規定,及び,それに関する判例,さらに,インターネット関連法規や既存の判例,並びに,法的に処理されていないが,これまで,専門家の間やネット上で論点となった事例と,それに対する見解や学説を概観することによって,サイバースペースにおいて,フェアユースを存立させている構成要素を特定し,その構造を帰納的に明らかにしていくというアプローチを採る。
(3)得られた(予想される)成果
 以上の操作によって導出されたフェアユースの構成要件を,現在進行中の国立国会図書館によるウェブ・アーカイビング・プロジェクトに関する「インターネット情報の収集・利用に関する制度化の考え方」の評価に適用するとともに,現在の我が国の著作権法の権利概念の妥当性の解釈,並びに,法と倫理との境界について若干の考察を加える。
◆氏名 長澤多代
◆所属 長崎大学大学教育機能開発センター
◆発表題目 
 大学図書館が実施する学習・教育支援を背景とした教員と図書館員のパートナーシップ:アーラム・カレッジのケース・スタディを中心に
◆発表要旨
(1) 研究目的
 本研究の目的は,米国の大学図書館が実施する学生対象の学習支援および教員対象の教育支援の現象の全体像を説明することによって,教員と図書館員がパートナーシップを構築するプロセスとその背景について理解を深めることにある。この目的を達成するために,次の研究問題を設定している:
@大学図書館は,学習支援を実施する中で,なぜ教員と協働するようになったのか,また,どのように協働してきたのか。
A大学図書館は,なぜ直接的に教育支援を実施するようになったのか,また,どのように教育支援を実施してきたのか。
Bどの学内組織が,大学図書館と協働して教育支援を実施してきたのか。大学図書館は,なぜこの学内組織と協働して教育支援を実施するようになったのか,また,この学内組織とどのように協働して教育支援を実施してきたのか。
(2) 研究方法
 本研究の方法はケース・スタディである。具体的には,米国の大学図書館が実施する学習・教育支援を背景とした教員と図書館員のパートナーシップ構築のプロセスとその背景を明らかにするための歴史的・組織的な学問的方向性をもつ記述的なケース・スタディということができる。調査対象の大学は,次の基準をもとに選択をしている:
@大学図書館が学習支援を実施する中で,教員と図書館員が恒常的に協働している教養カレッジおよび研究大学
A大学図書館が直接的な教育支援を実施している教養カレッジおよび研究大学
B大学図書館と他の学内組織が協働して教育支援を実施している教養カレッジおよび研究大学
 以上の条件をもとに,アーラム・カレッジ(教養カレッジ)とミシガン大学(研究大学)を調査対象とした。今回発表するのは,アーラム・カレッジのケース・スタディである。対象としたデータは,アーラム・カレッジに関する一次資料および二次資料である。具体的には,次のとおりである:
@学習・教育支援の経験をもつ図書館関係者の聞き取りによって得られる情報
A図書館が実施する学習・教育支援や運営・管理に関する資料記録
B会議の議題や提案・進捗レポートなどの管理文書
C学内広報誌に掲載された図書館関係の記事
D図書館が実施する学習・教員支援に利用している演習室や設備など物理的環境に関する情報
E図書館が実施する学習・教育支援関係の論文,学士課程教育に関する論文
F図書館が実施する学習・教育支援の直接観察から得られた情報
(3) 得られた(予想される)成果
@アーラム・カレッジの図書館が実施する学習支援と教育支援を背景として,教員と図書館員のパートナーシップが構築されるのに,どのような要因が関わっているのか,その事実を明らかにすることができる。 
Aアーラム・カレッジの図書館が実施する学習支援プログラムや教育支援プログラムの時間的変化の中で,現在の教員と図書館員のパートナーシップがどのように構築されてきたのかを説明することができる。
B@Aによって,大学教育を背景とした教員と図書館員のパートナーシップ構築の概念的枠組みを構築するための基礎的なデータを得ることができる。
◆氏名 鈴木恵津子,伊藤秀弥,井上梨恵子,糸賀雅児
◆所属 慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻情報資源管理分野,慶應義塾大学文学部(糸賀)
◆発表題目 
 わが国の大学図書館利用教育における教材の分析
◆発表要旨
(1) 研究目的
 大学図書館において図書館利用教育は様々な実践例が報告されている。オリエンテーション,OPACの使い方,データベース・電子ジャーナルの利用法など,多岐にわたる実践が行われ,そこで使用される教材はそれぞれの大学図書館で工夫を凝らし作成されている。平成14年(2002年)には,国立大学図書館において学術情報リテラシー資料の作成・提供状況の調査が行われた。調査は学術情報リテラシーの電子化システム共同構築の可能性をみるための予備調査であり,各教材間の比較研究を目的とはしていない。
 本研究では,大学図書館が作成した各教材で取り上げられている項目とその分量より,構成,特徴,類似性などを比較分析し,その傾向を明らかにすることを目的とする。そこで得られた結果より教材作成への現場からの提唱を行いたいと考える。その際,項目,構成を分析する準拠枠として,「図書館利用教育ガイドライン−大学図書館版−」(1998年,日本図書館協会図書館利用教育委員会作成)を採用した。
(2)研究方法
 大学における図書館利用教育のための13教材を対象に,教材で取り上げられている内容を「図書館利用教育ガイドライン―大学図書館版―」の目標を準拠枠として項目ごとに分類した。この日本図書館協会作成のガイドラインを準拠枠としたのは,我が国にはほかに準拠枠として適切なものが存在しなかったからである。対象とした教材は大学図書館が作成したもので,個々の検索ツール解説に限定されていないものとし た。冊子体の教材はA5版1ページを情報量1と換算して,分類した項目ごとの情報量を算出した。ウェブ上の情報は便宜的に1画面A4版1ページとみなした。その上で以下の3つの視点から分析を行った。
@ 準拠枠としたガイドラインの目標の領域(領域1:印象づけ,領域2:サービス案内,領域3:情報探索法指導,領域4:情報整理法指導,領域5:情報表現法指導)ごとの情報量の割合を算出し,全体の傾向を分析した。
A 主成分分析により教材のグループ化を行った。
B 情報量別の分析として,情報量が少ない項目を抜き出してその傾向を分析した。
(3)得られた(予想される)成果
@ 図書館利用教育の教材は,情報探索法の部分が質量ともに圧倒的に多い。情報探索ツールの紹介と具体的な利用方法についてのマニュアル的なテキストである。特に自然科学系はその傾向が著しい。
A ほとんどの教材には,図書館利用教育の理念や概念たるものがない。図書館利用教育がなぜ必要であるのかという意義や評価まで述べているものが少ない。本発表者の3人は現職の図書館員であるが,今回の分析および業務経験から,図書館利用教育がなぜ必要なのかという図書館員の役割意識の明確化が必要であるとの結論に達した。
B 慶應義塾大学KITIEは,オンライン・チュートリアルの教材である。今回の分析結果から,他の教材と比較して,評価の内容を含むなど,独自性を有していることが明らかとなった。
◆氏名 (a)瀬戸口誠(発表者) , (b)中島幸子, (c)漢那憲治, (d)大城善盛
◆所属 (a)慶應義塾大学大学院, (b)帝塚山大学, (c)梅花女子大学,(d)同志社大学
◆発表題目 
 中規模大学図書館における情報リテラシー教育の現状
◆発表要旨
(1)研究目的
 現在,大学図書館における情報リテラシー教育あるいは図書館利用教育に関しては,個々の大学における事例報告が主なものとなっている。しかし,情報リテラシー教育における今後の大学図書館の役割を検討する上で,大学図書館における情報リテラシー教育の現状を把握することが不可欠である。大学図書館における情報リテラシー教育に関する全国的な調査としては,全国の高専・大学図書館を対象にした2000年の橋による調査や大学の学習支援・教育支援機能という観点から全国の大学図書館を対象にした2001年の三浦等による調査等がある。ただし,これらの既往調査では,オリエンテーションと情報リテラシー教育,図書館利用教育といった用語の関係が明確でない,あるいはそもそも調査目的が情報リテラシー教育に焦点化したものではなかった。そこで,我々は,オリエンテーションから独立科目まで図書館が関わる情報リテラシー教育を段階的に捉え,2001年に大規模大学図書館(中央館)を対象に情報リテラシー教育の実施状況及びその内容を調査した。そして,その継続研究として位置づけられる本研究では,中規模大学図書館(中央館)を対象に,情報リテラシー教育の現状を明らかにすることを目的とする。
(2)研究方法
 2005年刊行の文部科学省『大学図書館実態調査結果報告』におけるC類型,つまり2学部から4学部を有する大学(国立26校,公立28校,私立234校:2004年4月現在)の中央図書館を調査対象とした。この中には独立大学院や統廃合された大学が含まれていたため,実際の調査対象は275大学となった。調査方法は,郵送によるアンケート調査法を採用した。調査期間は,2005年の6月19日から7月19日を設定した。質問紙では,新入生へのオリエンテーション以外の全学を対象にした(a)一般的情報探索指導と(b)主題別情報探索指導の実施内容及びその形態,(c)独立科目型の情報リテラシー教育の実施内容及びその形態,さらに(d)図書館員が考える情報リテラシー教育の内容及びそれに対する関わり方を尋ねた。
(3)得られた(予想される)成果
 米国を中心に,大学図書館における情報リテラシー教育に関する大規模な調査が行われている。翻って,我が国では,京都大学や三重大学等における先進的取り組みが報告されているが,個々の大学の事例にとどまるものが多い。時間的誤差はあるが,2001年に実施した大規模大学図書館調査と併せて検討することによって,我が国の大規模・中規模大学図書館における情報リテラシー教育の実態が明らかになるだろう。
 また,2000年の橋の調査では,大規模大学,特に国立大学の図書館が積極的に科目としての情報リテラシー教育に参加していることが明らかになっている。他の既往調査との比較によって,情報リテラシー教育あるいは図書館利用教育の変化を把握することができる。
 また,本調査では,情報リテラシーや情報リテラシー教育への関わり方に対する図書館員の意識にも着目した。これによって,図書館員が情報リテラシー教育やそれへの関わり方をどのように認識しているかが明らかになるだろう。
◆氏名 佐藤義則,宮埜寿夫,竹内比呂也,土屋俊
◆所属 三重大学人文学部,千葉大学文学部(宮埜・竹内・土屋)
◆発表題目 
 ILLログによる図書館関係構造の分析:大規模データに対する対応分析とクラスター分析
◆発表要旨
(1)研究目的
 平成4年4月に運用が開始されたNACSIS-ILL(学術情報センター・図書館間相互貸借システム)は,平成15年度末には参加機関数が917に達したように,日本の学術関連の図書館のほとんどを網羅するまでに至った。本研究の目的は,NACSIS-ILLの利用統計(複写および現物貸借の依頼・受付)データをもとに,わが国における学術情報流通の全体的な構造とその変化を把握することにある。
(2)研究方法
 最初に,平成6年度から平成15年度までの利用統計データ全件の基本統計を作成した。次いで,平成11年度から平成15年度の利用統計データから,すべての年度に出現している機関分を抽出したうえで,それぞれの機関間の需給(依頼・受付)頻度をカウントした。得られた需給頻度データの対応分析を行った結果,特異値のスクリープロットから次元を決定することは困難であり,次元的な解釈ではなく,クラスターによる解釈を行うことが適当であると判断された。この結果をもとに,k-means法によるクラスター分析を行い,クラスターを抽出した。さらに,クラスター間の需給関係を把握するために,クラスター間の需給頻度をカウントした。
(3)得られた(予想される)成果
 NACSIS-ILL全体の処理件数は増加しているが,これは平成11年度以降に参加した機関の処理件数の増加によるものである。すなわち,平成11年度より継続的にNACSIS-ILLを利用している機関の処理件数は単調減少しており,特に,平成14年度から平成15年度にかけての減少が著しい。電子ジャーナルの購入におけるBig Deal契約によって,多くの大学図書館で利用可能なタイトル数が増大していることが影響を与えたものと考えられる。
 クラスター分析の結果,需要側,供給側の双方で20を超えるクラスターが見出された。クラスターを決定する要因としては,1)機関の設置種別(国立,私立,公立など),2)機関の対象分野(文系,理工系,農学系,医学系など),3)地域(北海道,関東,関西,中部,九州など),4)大学グループ(近畿大学など)が想定された。また,各クラスターにおける需給頻度の分析から,クラスターにはさまざまなタイプがあることがわかった。この結果は,NACSIS-ILLによる全国的な学術情報流通が,具体的にどのように構成されてきたかを示すものであり,今後の研究,および学術情報流通体制整備のための基礎となるものといえよう。
◆氏名 栗山正光,竹内比呂也,佐藤義則,逸村裕,加藤信哉,松村多美子,土屋俊
◆所属 常磐大学人間科学部現代社会学科,千葉大学,三重大学,名古屋大学,山形大学,椙山女学園大学,千葉大学
◆発表題目 
 わが国の大学図書館政策に関する研究:1990年代の動向を中心に
◆発表要旨
(1)研究目的
本研究の目的は,1990年代から現在にいたる日本の大学図書館政策の包括的な整理と検証を行うことである。国の大学図書館政策は,国レベルでの学術情報資源の構築,科学技術政策,および高等教育政策の3つの観点から重要な研究課題である。また,20世紀末から現在にいたる大学図書館政策は,電子化と大学改革の中における今後の大学図書館機能に関する考察の前提となるべきものであり,その包括的な整理が継続性のある業務の遂行のために実務的にも求められている。しかし,この分野の研究は,政策内容の紹介は数多く行われているが,上記の3つの観点からその全体像を明らかにし,政策の立案,形成,実施,成果を網羅する包括的な研究はほとんど行われておらず,本研究が課題とする時期については資料的な整理すら十分ではない。本研究はこの空白を補うとともに,分析の前提となる事実関係を解明することを意図している。
(2)研究方法
 大学図書館政策とその実施に関わるステークホルダーとして,文部省(特に,学術審議会(現在の文部科学省における科学技術・学術審議会))および国の予算配分の影響を直接的に受ける国立大学図書館(特に,その集合体としての国立大学図書館協議会(現在の国立 大学図書館協会))を想定し,それぞれにおける意思決定,政策実施の動向を時系列的に配置し,国立大学図書館に大きな影響を与えてきたと考えられる政策意思決定に関わるものとして,「学術情報システム」構築の基礎となった1980年の「今後における学術情報システムの在り方について」(以下「1980年答申」),学術審議会が初めて大学図書館を主要審議対象とした報告書である「大学図書館機能の強化・高度化の推進について」(以下「1993年報告」)および「大学図書館における電子図書館機能の充実・強化について」(以下「1996年建議」)を特定した。現在への影響という観点から特に1990年代を中心にして,1)「1993年報告」および「1996年建議」の内容の分析,2)各ステークホルダーにおけるさまざまな出来事の背景と当事者の認識を知るための関係者への聞き取り調査,3)文部(科学)省の大学図書館および学術情報システム関連予算についての資料の収集と分析,4)『大学図書館実態調査結果報告』に基づく大学図書館のサービス/資源の指標の変化についての分析を行い,これらの分析を相互に関連づけることにより,1990年代のわが国の大学図書館政策の全体像を際立った特徴の抽出という形で描いた。
(3)得られた(予想される)成果
 「1993年報告」は,大学図書館にかかる最も包括的な政策意思 決定を表現している。しかし,この文書で強化・推進すべきとされた大学図書館の各種機能は,その後均等な推進施策に帰結していない。このことは,予算配分状況や『大学図書館実態調査結果報告』によって示される成果指標から実証できる。この状況がもたらされた要因については,今後さらに外的要因を含め考察を深めることが必要であるが,1990年代の大学図書館政策の背景とその意義の観点から検討することが必要である。
◆氏名 逸村裕,小山憲司,斎藤 泰則,鈴木正紀,高橋昇,戸田愼一,永田治樹
◆所属 名古屋大学附属図書館研究開発室,東京大学情報基盤センター,明治大学文学部,文教大学越谷図書館,九州女子大学人間科学部,東洋大学社会学部,筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
◆発表題目 
 「司書資格」と大学図書館員に必要な知識・技術−LIPER大学図書館調査報告
◆発表要旨
(1)研究目的
今日,大学図書館を巡る環境は激変している。少子化による18歳人口の減少,大学全般の財政緊縮及びアウトソーシングの進捗,電子ジャーナルの普及,情報通信技術導入と教育カリキュラム改定による情報利用行動の変化,それに対応した情報リテラシー教育の進展,と大学図書館に関わる課題は山積している。その状況下で,大学図書館を担う情報専門職の問題は重要である。そこでまずその配置状況,職務内容,必要な専門的知識技能そして司書資格養成教育に対しての認識を把握する。そして人的資源マネジメントのあり方,及び今後の「情報専門職」に求められる要件を明らかにし,養成および研修にあたる機関がそれらをどのように担当するべきかを検討する。さらに今後,情報専門職の質を維持発展するためにとるべき具体的指針はどのようにあればよいかを明らかにする。以上が研究目的である。
(2)研究方法
まず規模主題の異なる複数の大学図書館において若手/中堅/管理職/図書館長の四グループに分けたグループ・インタビューによる質的調査行った。ここで得られた検討事項,文献調査の結果そして1989年,大学図書館管理職に対し行われたいわゆる「東京大学調査」と同様の質問紙調査を実施することにより,この15年間の量的な変化を把握することができると考え,全国公私立大学図書館に対する質問紙調査を行った。本発表は両調査の結果をもとに総合的な分析を行い,報告するものである。
(3)得られた(予想される) 成果
第一のグループ・インタビュー調査は8大学図書館81名に対し実施した。この結果は2004年度第52回日本図書館情報学会研究大会で報告を行った。
第二の質問紙調査では対象図書館687館のうち439館(63.9%),1565票の回答を得た。この一部は2005年度日本図書館情報学会春季研究集会で報告を行った。
これらの調査から大学図書館員に求められる知識・技能について,
@一般的能力・教養(企画力・コミュニケーション能力),A主題知識/コンテンツ,B図書館・情報の知識・技術の三点の知見,枠組みを得た。
この詳細についてA.グループによる視点の違い,B.コアとなるものと周縁的なもの,C.その間に見えるもの等の観点から,専門的知識技能について因子分析等を用いながら検討を加え,今後の情報専門職の知識技能に関する要件を考察する。また「司書資格」に対する意識とその内容についての意見を検討し,これらを合わせて報告する。
◆氏名 谷口祥一
◆所属 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
◆発表題目 
 根拠の記録を伴う書誌レコード:有効な根拠記録の検討と作成:有効な根拠記録の検討と作成・参照システムの試作
◆発表要旨
 目録における書誌レコード(書誌的記録)の作成において,これまでは個々のデータ項目に対して,基本的にその採用した値のみ記録されてきた。目録は現在でも高品質なデータの実例ではあるが,より永続的かつ相互運用性を備えたデータとすることが,さらにはより信頼性の高いデータとすることが,他方で求められている。そのための一つの方策として,発表者はこれまでに,(1)データ項目の値の記述処理に際して使用された処理ルールやタスク,あるいは値の採取箇所など記述処理の入出力データを,値の根拠として値そのものに加えて記録することを検討し提案してきた。さらには,(2)それら根拠の記録作業を支援するシステムを試作し,評価実験を行った。
 本発表では,その継続として,書誌レコードの記述項目に対する記録可能な多様な根拠のうち,目録作業者向けにより深い目録処理や規則の理解が得られることを意図した有効な記録法と範囲を検討する。次に,その検討結果に従い書誌レコードへの根拠記録を行い,併せて記録された根拠と書誌レコードの対を適切に参照・表示できる機能を備えたシステムを試作する。
[研究計画・方法,得られた(予想される)成果]
1)書誌レコードへの有効な根拠記録の検討
 書誌レコードのうち,特に転記を基本とするデータ項目に焦点を当て検討する。記録しうる根拠として,記述処理に使用された処理ルールやタスクを想定した場合,a)AACR2,LCRIなどのルール,b)タスクとその処理内容(アクション:action),c) ルール等とタスク/アクションの両者がある。ここでタスクとは,データ項目の値の記述処理を3つに分割して設定したもの(情報源選択,表示要素選択,記録形式構成の各タスク)である。本研究では,検討の結果,個々の書誌レコードには,タスクとそのアクション,各タスクの入出力データを記録し,限定された場合にのみAACR2ルール等を記録する方式を選択した。
・アクションは,個々の書誌要素に依存して設定し,かつルールが備える「条件部分 (condition/event)」を含まないものとして設定する(条件部分は,記録する入出力データをもって判明させることを意図)。
・アクションは,与えられた主情報源(標題紙とその裏)に即した処理の範囲とする。それを越えた処理については,該当するAACR2ルール等を記録する。
・言語表現化が困難な部分,計算機処理が困難な部分を可能な限り明確化する。
・個々のアクションとAACR2ルールとの対応表を作成する。この対応表を介して事後的 に書誌レコードとルールとを結合させることができる。
2)根拠記録作成・参照システムの試作
 MySQLデータベース管理システム,Webブラウザ,Apache Webサーバ,PerlによるCGIプログラム,JavaScriptを用いて,現在,システムの試作を行っている。根拠記録作成機能は,以前に開発・報告した記録作業支援システムを核としたものである。併せて,今回,多様な参照・表示機能を備えたシステムとして開発している。追加した主な機能は下記の通りであり,各画面または表示項目ごとに可能な限り相互リンクを設定し,容易な参照を図っている。
・書誌レコード,アクション,ルールの検索機能
・書誌レコードとその根拠の表示機能:根拠の記録単位としての書誌要素(エレメント)の値とそれに対応する根拠(タスクごとのアクションとその入出力データ)を表示する。また,情報源(画像ファイルとOCRによりテキスト化したhtmlファイルのそれぞれ)へのリンクを提供する。さらには,情報源上の表示要素のそれぞれに対して,いずれのエレメントの入力データと見なしたかをマークアップしたhtmlファイルへのリンクを提供する。
・アクションの一覧表示機能:「エレメント → タスク → アクション」順表示と「タスク → エレメント → アクション」順表示との切り替えを可能としている。また,個々のアクションに対して,対応するルールと当該アクションが採用された書誌レコード件数とレコード番号を併せて表示し,それぞれルール一覧表示画面と書誌レコード(とその根拠)表示画面へのリンクを提供している。
・ルールの一覧表示機能:ルール番号順表示に加え,「タスク → エレメント → ルール」順,「エレメント → タスク → ルール」順,「タスク → ルール」順,「エレメント → ルール」順という多様な表示方式の選択肢を提供している。いずれの表示方式においても,個々のルールに対して,対応するアクションと当該ルールが適用された書誌レコード件数とレコード番号を併せて表示し,それぞれアクション一覧表示画面と書誌レコード(とその根拠)表示画面へのリンクを提供している。
◆氏名 1)志保田務,2) 北克一,3)杉本節子
◆所属 1)桃山学院大学,2)大阪市立大学,3)武庫川女子大学(非常勤)
◆発表題目 
 図書館用語の“ゆれ”に関する一考察:用語「リボン式配架」を素材に
◆発表要旨
(1)研究目的 
 図書館用語の用語法に“ゆれ”が見られる事実がある。こうした“ゆれ”は二つの方面に分けて考えることができる。一つは,同一概念が複数の用語で表されるケースである。いまひとつは,一つの用語が異なる二以上の意味に分かれて使用されるケースである本稿では後者の“ゆれ”に着目する。すなわち,一語に関して多様に存する意味づけのうちから,いずれを採ることが妥当であるかについて論及する。 この追究は,用語法の“ゆれ”が図書館情報学の教育・研究上不安定さをもたらす懼れがあるところから,それらの安定化を求めようとするものである。
(2)研究方法  
 言い換えると,さまざまの形で使用されている図書館関係用語について多数説,有力説,あるいは正当と解される意味づけを把握しようとする。なお,外国から移入された用語の場合,翻訳の源泉で使用された意味に還る必要がある。日本における図書館学が明治時代に始まり英米に大きな影響を受けていると考えるからである。本稿は上記範囲の事象のうち,その検討の素材として「リボン式配架」を採る。この語は現代では使用頻度の低い語であるが,それゆえにまた安定を得ない用法で使用される懼れがあると考える。ここに同語を対象とした理由があるが,本旨としては,サンプル研究,その方法論の一素材とした。 なお,「配架」,「配列」の「配」に関して「排」の文字があてられることがある。『日本目録規則1987年版』(及びその二つの改訂版)における「排列」がその例である。だが,本稿の扱う「リボン式」は,『日本目録規則』が仕切っている目録記入の「排列」作業とは無関係である。「リボン式」は『日本十進分類法』(新訂9版 1995 本表編 「解説」3.5)の言う「配架」(法)の一種である。このことを理由に,本発表では『日本十進分類法』が用いる「配架」の文字を表示上使用する。
(3)得られた(予想される)成果
 「リボン式配架」については,その目的,実施方法論などの紹介において,多くは 部分的紹介に留まり,また,そうした先行文献の「孫引き」的解説が長く流布されるに 至っている。こうした事実を,英米及び日本において,「リボン式配架」を取り上げた先行文献を比較考察し,文献的実証を得た。
◆氏名 山中秀夫
◆所属 天理大学人間学部
◆発表題目 
 「和古書総合目録における著作典拠について」
◆発表要旨
1)和古書総合目録を構築していく上で,記述対象資料毎にレコードが作成されることが共通の認識になっている。和古書は同一の著作であっても対象資料に記載されている書名は様々であり,さらに対象となる和古書は作成されてから100年以上経ったことによって元のかたちとは異なって,情報源が紛失・改変されていることもある。このように書名が極めて不安定な和古書においては著作典拠との関係を明示することは重要である。そのためには著作典拠ファイルが必要になる。『国書総目録』は著作名を標目にした和古書の総合目録として利用されており,同目録の著作データをオンライン化した,国文学研究資料館の「国書基本データベース(著作編)」はまずその対象と考えることができる。
2)ある文庫の目録作成をする機会を得,その際「国書基本データベース(著作編)」を著作典拠ファイルと想定してリンク付けを試みた。対象資料がどのレコードにあたるかを認定する際,「国書基本データベース(著作編)」に示されたデータだけでは極めて不充分であり,もとの『国書総目録』「古典籍総合目録データベース」を見比べながらの作業であった。さらに所蔵館のオンラインデータベースや公開されているイメージデータなどを利用することもあった。
3)「国書基本データベース(著作編)」を著作典拠ファイルとした場合には,有効に機能すると考えられる一方でいくつか問題がある。それは,同データベースの元になっている『国書総目録』の作成方法や当時の研究状況などに起因するものと考えられる。 問題点として,たとえば対象著作によって極めて多くの標目が上げられいる場合と1つの標目の中に様々なものを収めている場合がある。ある著作の頭注書について,頭注者ごとに1つの標目として列挙している場合と,著作のみを1つの標目として挙げ,頭注のあるなしあるいは頭注者の違いに関係なくその中に示している場合があった。また,写本の場合には刊本の伝蔵との関係で標目のたてかた異なっているようにも見受けられた。公開されているいくつかの情報源を見比べてもなお同定するに至らなかった場合もあった。
 和古書総合目録においては,著作典拠への関係づけは不可欠であるが,和古書の著作典拠としてどのようなデータを想定するかを考える必要がある。
◆氏名 櫻木貴子
◆所属 愛知淑徳大学文学部
◆発表題目 
 学部学生のWeb情報源評価に影響を与える要因
◆発表要旨
(1)研究目的
 本研究では,学術情報へのアクセス回数や所属する学問分野に関する知識が研究者ほど豊富ではない学部学生によって行われるWeb情報源評価に影響を与える要因を明らかにすることを目的としている。
 本研究において想定した要因は下記の3点である
 ・学部学生のインターネット利用経験
 ・問題解決に利用するメディアの優先順位
 ・個々の学部学生が保持する批判的思考態度
 これら3点の要因が,学部学生による課題作成等の学術利用を目的として収集されたWeb情報源の評価に影響を及ぼす要因であるかを検討する。また,これらの要因が影響している場合に,各評価項目(群)に対する影響の度合いについても検討する。
(2)研究方法
 愛知県および岐阜県の大学に所属する3年生および4年生111名を被験者として,無記名の質問紙法による実験を行った。被験者の所属学部は文学部,教育学部,地球科学部,家政学部,文化創造学部の5学部である。実施は2005年7月15日と8月4日の2回に分けて行なった。被験者全員が授業内でWeb情報源の評価に関する指導を受けていた。無記入の回答項目が存在した21件を分析から除外したため,有効回答数90件であった。質問紙は下記の3部分から構成されている。
 ・被験者のインターネットの利用経験および問題解決に利用するメディアの優先順位に関する設問:7問
 ・学生の批判的思考態度に関する設問(4段階のリカート法):33問
※4つの因子から構成:「論理的思考への自覚」13項目,「探求心」10項目,「客観性」7項目,「証拠の重視」3項目 ・Web情報源評価項目に関する設問(3段階のリカート法):95問
※8つの群から構成:「Accuracy」「Purpose」「Authority」「Content」「Recency / Stability」「Accessibility」「Subjectivity」「Other」
※実験者が提示した評価項目以外の着目点を被験者が想起した場合のための自由記述欄を設けた
(3)得られた(予想される)成果
 現時点で確認されている結果は下記の通りである。
 ・インターネット利用歴や週当たりのインターネット利用時間の長さは,被験者が着目した評価項目数の多少や批判的思考態度の発達度には殆ど関係しない
・被験者が着目した評価項目数の多少は,批判的思考態度の発達状態と弱い相関が見られる
今後さらに分析を進め,より詳細な検討を行う。
◆氏名 洪梅
◆所属 東北大学情報科学研究科 人間社会情報科学専攻メディア情報学講座メディア文化論分野
◆発表題目 
 <事象的なアプローチ>によるファセット分類
◆発表要旨
(1)研究目的:
 インターネットの効率的な情報検索の手がかりとして,ファセット分類が注目されている。しかし,その潜在性を果たすため,従来のファセット分類は修正される必要がある。既存のファセット分類法のほとんどは学問分野的アプローチに基づき,ファセットは学問分野の文脈に左右されてしまう。<学問分野的アプローチ>は唯一の可能なアプローチではなく,事象的アプローチ分類に関する今までの研究を振り返り,現在のインターネット上の情報検索におけるファセット分類の問題点を分析して,改め,<事象的アプローチ>を提案することが本稿の目的である。
(2)研究方法:
 画期的斬新な動きともいえる[ファセット理論]と[事象的アプローチ]の両方を焦点し研究してきたCRG(Classification Research Group;1969)の「積層レベルの理論」 (Integrative Level Theory)に注目し,その研究を振り返り,積層レベルの理論の主要な利点と欠点について纏め,CRG は更にその理論を実行しなかった原因を分析する。インターネット情報検索において,学際的な情報の検索共に多ユーザーの検索問題を注視してきて,事象的アプローチのファセット分類が重要になってくる。
 具体的には,まず,ハルトマン(Hartmann, 1942) 及びフィーブルマン(Feibleman, 1954)の積層レベルの理論によれば,あらゆる物質的な実体はその構造に従って,ふさわしいレベルに割り当てることができる。後ろのレベルは前のレベルの性質の全部を持っている一方,それ自身も新しく独自の性質を備え,これは,また次のレベルの性質の一つになる。この原理に基づき,実際に,ある事象を位置づけるときには,より高いレベルに属していれば,より先に順序を決められている。それは一般的に客観的な世界における事象のレベルとレベルの間の関係性を示していた理論である。そのため,分類における主類の配列の原理の一つとして,CRGに利用されていた。主にランガナータンから受け入れたファセット分類法を理論研究してきたCRGは,かれのコロン分類法の主類の配列には理論的な根拠が足りない,ファセットは学問分野に左右されるため,とく第一パーソンナリティ・ファセットの定義は曖昧さをかかれていた。そのため,CRGは学問分野の第一区分になるのをやめる方向へと向かい,この理論の応用の可能性に注目し理論研究し始めていた。しかし,その理論を実行しなかった。最初CRGは,図書館分類表の特徴である線型排列になると期待された積層レベルの理論は,上位のレベルへ進む過程で分岐構造を起こす。図書の書架上での配架位置を決定するという機能を重視していた当時の状況からこの欠点を克服されなかった。そのまま,ファセットを中心とした研究に戻ることになっていた。今,インターネットの情報検索は必ずしも書架分類のように線型に収まる必要がない。また,それぞれのユーザーにおける情報検索問題を重視すべき考えから見れば,同じ情報に対して,検索要求が違い,多視点から情報を収集する必要性があり,ファセット分類が必要である。そのゆえ,学問分野の境界を越えて,二つ以上の学問分野からある特別の現象に関する研究である学際的な情報をいくつかの学問分野領域に分散することをさけるため,学問分野よりもむしろ事象に注目する強い傾向が示されている。学問分野的アプローチからのファセット分類法は,学問分野の文脈に左右されているという弱点があるため,ファセットの徹底的に拡展することが禁止され,又,(列挙分類法ほどではないが)分類項目を絶えず編修していく問題を避けられないという事実から,理想的な分類法は,事象的アプローチを導入していたファセット分類となるべきである。
(3)予想される成果:
 本稿では,CRGの積層レベルの理論に注目する。CRGは当時の状況から<学問分野的アプローチ>を優先させが,多ユーザーの情報検索研究を重視するべき共に学際的な研究が広がっているインターネットの現況から見ると,<事象的アプローチ>のファセット分類により,情報検索が向上すると考えられる。
◆氏名 平紀子
◆所属 北海道医療大学 学術情報センター
◆発表題目 
 医療系図書館員の知識・スキルおよび意識の現状−医療従事者との意識のギャップを中心に
◆発表要旨
(1)研究目的 
医療系大学図書館の多くは学生・教職員等の学内利用者のみならず,臨床現場の医療従事者に医学・医療情報を提供している。このように多様なユーザーの情報ニーズに応えるためには高度な専門知識・スキルが不可欠である。そこで図書館員がもつ専門知識・スキルと意識の現状を明らかにし,さらに,医療従事者の情報ニーズおよび図書館員への期待度を調査し,両者間のギャップの有無およびその問題点を明らかにすることをこの研究の目的とした。
(2)研究方法 
道内の医療系図書館員および医療従事者にアンケート方式質問調査とインタビュー調査を実施した。得られた回答結果に基づき,統計ソフト「SPSS11.0J for Windows」によるデータの集計,クロス集計,分析を行い,図書館員の知識・スキルの現状と医療従事者の学習・情報ニーズを明らかにし,両者間の意識のギャップをみた。図書館員を対象とした調査は,道内の医療系大学図書館員93名(52名回答),病院図書室職員36名(21名回答)を対象に行った。調査期間は平成16年2月20日〜3月26日,調査項目は研修会参加状況,利用者サービスに対する意識,業務上の知識・スキル・態度,医療従事者からみた期待度等について回答を求めた。また,医療従事者を対象とした調査は,道内の医師120名(95名回答),歯科医師999名(86名回答),看護職974名(658名回答)を対象に行った。調査期間は平成15年12月10日〜平成16年3月10日,調査項目は情報ニーズの内容,情報の入手方法,入手した情報の満足度,図書館員への期待度,情報検索の知識・スキルおよび図書館の利用状況等について回答を求めた。
(3)結 果
図書館員は研修会参加の機会が少なく,特にデーターベース,EBM,インパクトファクターに関する知識・説明能力のレベルが低く,情報サービスに自信がなかった。そして医療従事者からは期待されていないと思っていた。また医療従事者の情報収集活動における満足度は低かった。医療従事者からの期待度の高い項目は「インターネットによる医療情報の提供」「講習会の開催」「利用者との充分なコミュニケーション」であった。図書館の利用率は低いが図書館員に対する期待度は高かった。
図書館員と医療従事者間のギャップが大きい項目は「教養知識」,「専門知識」,「コンピュータ活用能力」,「プレゼンテーション能力」,「柔軟な環境適応能力」であった。 
医学図書館員と医療従事者間の意識にはギャップがあることが明確になった。
◆氏名 田村俊作,三輪眞木子,斎藤泰則,越塚美加,河西由美子,松林麻実子,池谷のぞみ
◆所属 慶應義塾大学文学部,メディア教育開発センター,明治大学文学部,学習院女子大学国際文化交流学部,玉川大学教育学部,筑波大学大学院図書館情報メディア研究科,Palo Alto Research Center
◆発表題目 
 公共図書館利用者の知識共有メカニズム
◆発表要旨
(1)研究目的
 公共図書館の利用については,これまでは利用者の人口統計的な属性や,図書館のサービスにあわせた利用目的や資料タイプなどに関する計量的な研究が中心で,特定の利用者コミュニティに着目した研究や,情報利用研究の成果として得られたモデルや理論を適用した研究は,少なくともわが国にはない。しかし,従来のような研究の視点と調査手法では,図書館利用の量を追うことはできても,今日課題とされているような質を追求するサービスが,利用者に対して持つ意義を解明することは難しいように思われる。
 本研究では,「公共図書館の利用者が,図書館で得た知識をどのように活用しているのか」という課題について,特に利用者が得た知識を他人と共有するプロセスに着目し,公共図書館が提供する情報が,利用者個人の情報世界を媒介として,その所属するコミュニティに影響を与えるメカニズムを考察することを目的としている。
 今回の発表では,理論的課題の整理と,研究のフレームワークを提示する。併せて,ビジネス支援サービスを例に,研究の方向性について若干の示唆を与えてみたい。
(2)研究方法
 理論的課題の整理としては,情報利用研究におけるWilsonなどの情報行動モデルの適用可能性の検討,組織内での情報交換と知識共有メカニズムに関する,状況論を主とした既往研究の検討,などがあげられる。この理論的課題の整理に基づいて,研究のフレームワークを検討する。大枠としては,1.課題の整理をもとに,図書館利用と知識共有に関する仮モデルを構築する,2.利用者に図書館利用体験を語ってもらい,それをもとに,3.仮モデルを修正・展開することにより,4.公共図書館利用により得た知識の共有メカニズムに関するモデルを構築する,といったフレームワークとする予定である。
(3)予想される成果
 公共図書館の利用の分析に,情報利用研究,および,状況論的な情報システム研究の成果を導入することが期待される。従来の情報利用研究では,個人の探索行動に焦点があてられており,探索の帰結や,結果の共有といったことは論じられてこなかった。他方,情報システム研究では,企業等の組織における知識共有についてもっぱら論じられ,図書館のような開放系のシステムは対象とされることがなかった。両領域の知見を合わせることにより,公共図書館のような開放系のシステムによる知識共有について,新たな視点から論ずることができるようになるものと期待される。さらに,公共図書館の効果を理解するための,数値以外の新たな方法を提案することもできるだろう。
◆氏名 大谷康晴,小田光宏,大庭一郎,野末俊比古
◆所属 青山学院女子短期大学一般教育科目,青山学院大学文学部,筑波大学図書館情報メディア研究科,青山学院大学文学部
◆発表題目 
 公共図書館職員の知識・技術に関する意識を形成する要因:LIPER 公共図書館班アンケート調査におけるクロス集計を中心に
◆発表要旨
 (1) 研究目的
 本研究は,日本図書館情報学会 LIPER プロジェクト実態調査グループ 公共図書館班による研究成果の一部である。すなわち,公共図書館職員養成という観点からの図書館情報学教育のあり方の検討するために,「公共図書館の職員は,図書館職員に必要な知識・技術をどのようにとらえているか」,そして「必要な知識・技術はどこで修得させていくべきか」という意識等の実態を把握し,併せて公共図書館職員養成のあり方について考察していくことを目的とする。
 (2) 研究方法
 上記目的を達成するため,全国の公共図書館職員(常勤または常勤相当の職員)に対し,2004年9月から10月にかけてアンケート調査を実施した。この調査では,『日本の図書館 2003』の掲載順に従って系統抽出した175自治体(全体の約10分の1に相当)に質問紙を郵送して,当該自治体の全ての常勤職員及び常勤相当(週40時間勤務)の非常勤職員に回答を依頼した。その結果,120自治体から1266名分の有効回答が寄せられた。この成果について,図書館情報学教育関係者への聞き取り調査で詳細な分析の要望が強く出されていた,司書資格の有無,館長の意見,設置母体の違い,図書館以外の職場の勤務経験といった回答者の属性についてクロス集計で検討する。
 なお,本調査の単純集計部分については,2005年度日本図書館情報学会春季研究集会にて,クロス集計の方向性に関する図書館情報学教育関係者への聞き取り調査については,2005年度西日本図書館学会春季研究集会にてそれぞれ報告済みである。
 (3) 得られた成果
 フェイスシートと知識・技術部分のクロス集計を検討すると,設置母体,館長(職位),司書資格,図書館以外の職場の勤務経験等によって意見がかなり異なってくることが分かる。本発表では,以上の点に関する詳細な発表に加え,これらの諸要素に図書館内外での勤務年数なども加えて複数の要素を組み合わせたより詳細なクロス集計を行い,どの要素がこれら職員の知識・技能に関する認識に影響を与えているのか,さらに職員側から見た既存の教育の効果,問題点を見つけ出すことで,公共図書館職員養成教育の改善に繋げていくことを予定している。
◆氏名 大場博幸 
◆所属 亜細亜大学非常勤講師
◆発表題目 
 公共政策としての公立図書館:論点の整理
◆発表要旨
(1) 公立図書館はなぜ税で運営されるのか?について,経済学を論拠とする公共政策理論を参照しながら理論的に検討し,論点整理をする。
(2) 政治理論あるいは公共経済学など関連する分野の文献調査。また,1980年代の米国で行われたWhiteやVanHouseらによる公立図書館の公的支援に関する論争を参照する。
(3) 第一に,論証の手続きについて論じる。税金を財源とすることが妥当かどうかは,次の二つのケースに該当するかどうかで判定される。一つは,公立図書館が無い場合と存在する場合を比較して,後者の方が社会全体の満足が高まるケース。もう一つは,公立図書館が存在しないと仮定したとき,社会的に合意された水準の平等を達成できないケース。また,論点の整理として,最近しばしば使用される「公共性」なる概念は必ずしも図書館が公的機関であるよう要求するものではないことを指摘し,さらに図書館の運営効率を改善する議論と図書館への公的支援の妥当性についての議論は別レベルの問題であることも加えて指摘する。
第二に,図書館が補完しているとされるサービス領域において,市場の失敗が起こっているかどうかを検証する。失敗があるならば,図書館の存在は先に示した「社会的満足が高まるケース」に該当し,その公的支援の正当性の論拠が導かれるだろう。結論としては,書籍の提供など図書館のサービス領域において,市場の失敗を導くことは困難である。市場の失敗を導くには,書籍など情報資源が一般の商品と異なり特別な財であるとみなす操作が必要となる。
第三に,図書館サービスは社会的不公平を是正する再分配政策とみなしうるかどうかを検討する。伝統的には社会教育論,近年では情報アクセスの保障機関論が,公立図書館サービスを再分配政策とみなしている。だが,利用実態から見て再分配政策だと主張するのは難しいということはしばしば指摘される事実である。たびたび繰り返される課金についての議論もこの文脈にあり,先に見た社会効率の議論と結びつけるのは適切でない。また,情報アクセスの保障機関としてみても次のような困難がある。情報から阻害された弱者を,他の再分配政策と重ならない独自の存在として定義することが難しい。結果として図書館の政策的優先順位を低める結果となるだろう。しかしながら,労働技能を高めるワークフェア国家路線においては,公的扶助を削減する一方での対策として,独学推進機関として存在理由を与えられうるだろうことを示す。
◆氏名 河村芳行
◆所属 北海道武蔵女子短期大学(教養学科)
◆発表題目 
 札幌市近郊中小都市における図書館来館者の利用行動−市制施行後に本館を新設した2市図書館を事例として−
◆発表要旨
(1)研究目的
 北海道における市町村合併は終盤を迎えつつある。石狩市も今年(平成17年10月1日)に厚田村,浜益村と合併する予定である。札幌市近郊の 北広島市と石狩市は平成8年9月1日に同時に市制を施行した人口6万人程度の都市である。市制施行後,本館を新設した両市の図書館は立地状況や施設形態(複合・単独),運営方針等で違いが見られる。
 本研究は,両図書館において開館5年後の比較的利用の安定した時期に来館者調査を行うことにより大都市周辺中小都市の図書館利用者の基本的な利用構造を捉え,今後の行政区域を越えた図書館サービスの計画指針を見いだすことを目的としたものである。
(2)研究方法
 本年6月,石狩市民図書館において平日と休日の2日間に亘り実施した来館者調査を基に,@来館経路と距離,A交通手段と所要時間,B在館時間と滞在人数,C利用館の選択,D利用目的と頻度などについて,平日と休日とに分けて北広島市図書館来館者調査(2002年11月に実施)で得られているデータと比較分析する。なお,両調査とも開館時から閉館時まで終日全来館者を対象に調査票を手渡しするアンケート方式で実施した。
(3)得られた(予想される)成果
 北広島市はJR駅前立地型の複合施設で,石狩市は役所集積立地型の単独施設というように立地状況・施設形態が異なる2図書館であるが,どちらも自宅からの自家用車利用が中心であり,立地状況・施設形態による利用行動の差異はほとんど見られない。一方,両図書館とも行政区域を越えた近隣市町村からの利用者が約2割ほど占めており,自家用車の普及によるモビリティの高まりは,いずれの利用者属性においても非日常的な施設・設備の魅力に惹かれての本館志向を強めている。本館の利用形態としては,両図書館とも平日には利用頻度の高い日常的・習慣的利用者(主婦や無職高齢者が多く,休日には 図書の返却期限ごとに合わせて来館する利用者(特に,30〜40歳代の勤務者男性)が多くなっている。
 すなわち,本館の他に規模の小さい分館・分室レベルしか持たない図書館システムでは本館利用が中心であり,本館における平日利用は休日の混雑を避けて主婦や無職高齢者の利用が多い。本館利用者の中でも平日と休日とで利用者の棲み分けがなされている。
◆氏名 山本那美,植松貞夫
◆所属 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
◆発表題目 
 公共図書館利用行動による気分の改善
◆発表要旨
(1) 研究目的
 様々な場所を利用し行動することは,人間の心理に様々な影響をもたらす。各種の場所の利用による心理的影響を調査した先行研究では,大学生にとっては「図書館」が他者の存在を気にせず行動できる「専有空間」であり,「課題への集中」をもたらすということが示されている(泊・吉田, 1999)。本研究は,様々な世代が多様な利用行動をとる公共図書館という場所が,利用者の心にもたらす有用な影響を,利用行動により発生するポジティブな「気分(mood)」として捉えることを目的とする。また,生じたポジティブな気分が,公共図書館への評価に正の影響を及ぼす可能性も合わせて検討する。なお,心理学において「気分」とは,比較的穏やかで原因が明確には意識されない持続的な感情状態を指す。
(2) 研究方法
 公共図書館利用時の気分の実際を自由記述式の予備調査により把握した上で,2004年3月に我孫子市民図書館利用者272名および守谷中央図書館利用者262名に質問紙調査を行った。質問紙は以下の構成であった。Q1:性別と年齢 Q2:図書館利用頻度 Q3:図書館利用時間 Q4:利用行動についての質問(16項目5件法) Q5:利用時のポジティブな気分についての質問(26項目7件法,予備調査の代表的記述を基に作成)Q6図書館への好意・満足度についての質問(3項目5件法)
(3) 得られた成果
 我孫子市民図書館利用者および守谷中央図書館利用者の回答傾向に統計的に有意な差が見られないことを確認し,全回答者のデータをプールして用いた。回答者は30から50代,月に数回来館し,30分から1時間利用して帰る人の割合が高く,全体の半数を超えた。因子分析により,利用行動については「調べ物・勉強」「職員へのレファレンス」「ブラウジング・滞在」「貸出」と解釈される4因子を,利用時のポジティブな気分については「集中」「知的好奇心」「リラックス」「気分高揚」と解釈される4因子を抽出した。さらに重回帰分析を行い,利用行動と利用時のポジティブな気分,図書館への好意・満足度の関係性を検討した。結果,「ブラウジング・滞在」行動は全てのポジティブな気分を高め,「リラックス」気分は図書館への好意・満足全てに正の影響を及ぼすことなどが明らかになった。次に,「来館頻度低群」(年数回以下来館の78名)「来館頻度高群」(週数回来館の83名)の差異を見るため,各々に同様の重回帰分析を行った。両群は「ブラウジング・滞在」行動がポジティブな気分の発生に与える影響が大きい点で共通していた。主な相違は,頻度低群では利用行動に影響を受けるポジティブな気分は少ないが,生じたポジティブな気分が好意や満足に影響を与えやすいこと,頻度高群では利用行動の影響で生じるポジティブな気分が多いが,図書館への好意や満足はポジティブな気分に影響を受けにくいことであった。
◆氏名 菅野育子  
◆所属 愛知淑徳大学文学部
◆発表題目 
 図書館,博物館間の情報共有化の可能性
◆発表要旨
(1)研究目的
 これまでに図書館資料と博物館資料の資料識別における違いとその違いが生まれる背景について検討してきたが,その研究成果を基に,本研究では図書館と博 物館という異種館間での情報の共有化の可能性を探ることを目的とする。具体的には,図書館と博物館がどのように協力し合い,これまで別々に作成してきた資料に関する情報を,どのように相互運用できるかについて明らかにすることである。
(2)研究方法
 まず,図書館と博物館に対して求められている機能がどのように変化してきたかについて,海外における両機関の歴史を扱った文献を調査する。分析の観点は,両機関の機能の相違点を明らかにすることである。次に,海外における図書館と博物館の共同運営の現状について扱った関連文献を調査する。分析の観点は,共同運営が実現した背景や共同運営から生まれる各館の課題を明らかにすることである。さらに,書誌情報と博物館情報間の相互運用の前提となる活動を探し,その関連文献を分析する。
(3)予想される成果
 フランスのポンピドゥー・センターの公共情報図書館(BPI)とパリ国立近代美術館(MNAM),米国のIMLS(the Institute of Museum and Library Services)が支援する図書館と博物館の共同運営,EUにおける図書館や博物館のデジタル化に関する活動を対象として,共同運営における可能性を検討する必要がある。
 さらに, Getty財団のマッピング活動,MARC VM(visual materials)から博物館の登録レコードへのマッピング調査,ICOM/CIDOC/CRM多種多様な資料を一括して扱うための概念モデルの国際規格化といった動きなどがあり,それらは書誌情報と博物館情報間の相互運用の前提として捉えることができる。
◆氏名 坂口貴弘
◆所属 慶應義塾大学大学院
◆発表題目 
 アーカイブズ編成・記述の枠組みとしてのシリーズ・システムをめぐる基礎的検討
◆発表要旨
現代の公文書や前近代の古文書をはじめとするアーカイブズは通常,1点だけで成立しているのではなく,複数点の資料が有機的な構造を形成するという特徴がある。そのため,アーカイブズの組織化においてはその構造を把握し,復元するプロセスとしての「編成」作業が,記述とともに必要であるとされて
いる。1990年代以降,アーカイブズ組織化のための指針として,「国際標準記録史料記述:一般原則(ISAD(G))」等が開発され,それらの適用が各国で進んでいる。
 この理論的基盤となっているのは,アーカイブズはそれを作成した機関の組織階層を反映した形で編成されねばならない,という「出所原則」であった。これに基づきISAD(G)は,イギリスにおける伝統的な編成・記述の理論と技法に主に立脚して,フォンド,シリーズ,ファイル,アイテムという4階層のアーカイブズ編成モデルを提示している。
 一方でオーストラリアにおいては1960年代以降,一般に「シリーズ・システム」と呼ばれる独自の編成システムが提唱されてきた。これはアーカイブズを多階層ではなく記録を作成した業務機能ごとにシリーズを形成させて把握しようというものである。この概念を基礎とした国内標準の開発も進んでいる。
 シリーズ・システムの考え方については近年,1) 「出所原則」の新たな解釈である,2) アーカイブズ作成機関の組織改編に容易に対応できる,3) 電子メディア利用を前提としたアーカイブズの組織化を考える際に有力な選択肢を提供する,といった可能性が指摘され,国際的にも注目を集めつつある。しかし従来,日本のアーカイブズ界では国際標準であるISAD(G)が準拠すべきモデルとして受容されてきたが,シリーズ・システムについてはほとんど紹介されず,適用事例も国内には存在しない。
 シリーズ・システムの有効性について検討する際には,それがオーストラリアというコンテクストをこえて他の国でも準拠可能なモデルであるかを実践的に論じる必要があるが,本研究においては,そのための基礎的調査として,同システムの理論的枠組みと若干の適用例について検証を行うことを目的とする。
 まず,文献レビューによってシリーズ・システムが成立した要因とその理論的基盤について概観する。次に,ISAD(G)の構成要素との比較によってシリーズ・システムの特徴を主に「実体」「関係」「属性」の3点から明らかにする。さらに,発表者らが実施するオーストラリア国内での現地調査によって,国立公文書館のCommonwealth Record Series (CRS),ビクトリア州立文書館のVERS等といったシリーズ・システム適用例の仕様を実見し,それらへの評価をインタビュー形式で聴取する。これらの結果から,同システムの適用を試みる際に求められる要件を明らかにする。
◆氏名 1)原田隆史,2)江藤正己,3)沈佳俊
◆所属 慶應義塾大学文学部 図書館・情報学専攻
◆発表題目 
 表紙画像の特徴をもとにした絵本の検索
◆発表要旨
(1) 研究目的
公共図書館の主要な業務のひとつに幼児・児童に対するサービスがある。絵本を幼児などに提供することは。ほぼ全ての公共図書館で行われている。また公共図書館には,かつて読んだ絵本を探して欲しいというレファレンス質問も寄せられる。
このような絵本を利用者が探そうとする場合,現在の検索システムではタイトル中のキーワードや登場人物などの語を指定して探すこととなる。しかし,幼児が図書中の語を表現することは難しく,またレファレンス質問を寄せる大人にとっても,過去に読んだ絵本のタイトルを正確には覚えていないために語からは検索できないことがある。
絵本は,文字によるタイトルと同時に,絵が大きな役割を果たすことから,こうした絵本を同定する際には,一般の小説などのように内容を表現する語からではなく,使用されている絵を元に探せることが望ましい。特に絵本の表紙に描かれている絵は,内容を端的に表現するものとして有効であろう。
このような絵本の表紙を元に検索を行おうする場合,どの程度の詳しさで表紙の内容を表現したらよいのかが問題となる。たとえば,単に「犬が描かれていた」というだけでは多数の絵本か該当してしまい求める図書にたどりつけない可能性があり,また,詳細に表現することを求めても,そこまで確かには記憶していないということがある。
そこで,本研究では現在刊行されている絵本の表紙絵のもつ特徴を分類し,公共図書館などにおいて絵本を検索するシステムを考える場合に,表紙の絵に関してどのような項目を指定すれば効果的なのかを検討する。
(2) 研究方法
amazon.com および 紀伊国屋Bookwebに収録されている絵本を対象として,その表紙にどのような構成要素が描かれているのかを人手で調べる。さらに,その構成要素を,内容(動物,乗り物,中小物など),方向(右向き,下向きなど),大きさ(表紙全体のどの程度の割合なのか),色などの項目ごとに分類する。さらに,多くの絵本に描かれているものについてはさらに細分類する。たとえば,動物をさらに犬,猫などに分けるのがこれにあたる。
さらに,画像のイメージからの検索を行うために,これらの構成要素を代表する絵を作成し,それを画面上にマウスを使って配置することで絵本が検索できるシステムを試作する。このシステムを実際に使用してもらうことで,どの程度の絵本が判別可能なのかについての評価を行い,項目の決定を行う。
(3)予想される成果
公共図書館などにおいて,絵本を直感的な画像から検索することができるシステムを構築するための基礎的なデータを得ることができる。また,人間が絵本に対して持つイメージを分析するための基礎的なデータとしても有効であると考えられる。
◆氏名 山梨あや
◆所属 慶應義塾大学(非常勤)
◆発表題目 
 戦前期公共図書館における教育の模索―今澤慈海の図書館論を中心に―
◆発表要旨
(1)研究の目的
 本研究の目的は,戦前期の公共図書館においてどのような教育が模索されていたのかを,図書館での実践に携っていた図書館員の視点から明らかにすることである。具体的には,東京市立図書館館頭として,東京市立図書館を発展させるとともに,戦前期の日本における公共図書館論を構築した今澤慈海の図書館論を中心に,公共図書館においていかなる教育が模索されていたのかを検討する。
 今澤が東京市立図書館館頭として活躍したのは,大正デモクラシーを背景に社会教育や社会政策が注目され,教育への関心が学校教育に限定されなくなった時代である。ことに,第一次大戦後の「教育改造」では学校教育,特に義務教育の限界性が認識されていた。このことは,実現はされなかったものの,臨時教育会議において義務教育年限の延長が審議されたことや,1921年,文部省に社会教育課が設置されたことにも反映されている。また,この時期,民間においても知識人を中心に趣味や娯楽を対象とした教育が構想されている。
このような意味において,大正期は「教育拡充」の時代であったといえよう。また,新教育運動は,従来の学校教育を画一的」,「強制的」とし,子どもの個性や自発性を重視した新教育運動を展開したが,これも「教育拡充」の流れに位置づくものである。一方,地方改良運動以降,社会教育に対する関心は徐々に高まりを見せ,中でも図書館は社会教育機関として注目されるようになる。勿論,これは図書館を通じて一般民衆を「教化」するという意図に基づいてはいるものの,それまでは個々人の趣味や娯楽としてしか捉えられていなかった読書という行為が「教育」の対象として認識されるようになったという意味において,画期的な出来事であるといえよう。
 以上のような動向の中で,今澤は図書館における「生涯的教育」を構想した。今澤の図書館論及びその実践は,戦前の公共図書館論,実践に多大な影響を与えるとともに,戦後の公共図書館の基盤となる近代的な公共図書館論の原型を形成する一翼を担うものであったと考えられる
(2)研究の方法
 本発表では,@今澤の著書である『児童図書館の研究』『図書館経営の理論及び実際』及び東京市立図書館の館報である『市立図書館と其事業』などに掲載された論稿から,今澤の図書館における「生涯的教育」構想を明らかにする A今澤よりやや遅れ,昭和期に図書館論および読書指導を展開した中田邦造の,図書館における「自己教育」構想を,『石川県立図書館月報』等に掲載された論稿から明らかにするB今澤,中田の論を比較検討することを通じて,戦前期の公共図書館において教育がどのように模索されていたのかを検討する。
(3)予想される結果
 本研究は,戦前期の公共図書館において,教育というものがどのように位置づけられていたのかを具体的に把握する一助となるだろう。また,現代の公共図書館論の原型を形成した時期の図書館論を分析することは,現代の公共図書館における教育を検討する上でも示唆するところがあると考えられる。
◆氏名 山口真也
◆所属 沖縄国際大学総合文化学部日本文化学科
◆発表題目 
 学校図書館における読書記録の管理方法に関する調査−貸出記録の消去をめぐる問題を中心に−
◆発表要旨
(1) 研究目的
 個人情報保護法の本格施行により,図書館利用者の個人情報の取り扱いに注目が集まっている。個人情報の一つである貸出記録の流出や目的外利用を防ぐための最も効果的な管理方法は,貸出記録をその用途が終了した時点,つまり返却と同時に消去することであると考えられている。また,貸出記録を消去することは,個人情報保護にとどまらず,利用者の「読書の自由」を保障する上でも重要な対策であると言われており,日本図書館協会の「貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準」(1984年)の中でも,「貸出記録は,資料が返却されたらできるだけすみやかに消去しなければならない」ことが1つの基準として挙げられている。
 しかし,こうした考えがある一方で,全ての図書館(図書館員)が貸出記録の管理方法について,高い意識を持っているとは言い切れない状況もある。特に,専任・専門の図書館員が長く配置されてこなかった学校図書館では,(一部の高校図書館を除いて)貸出記録の消去については,本格的に議論された記録がない。現在の貸出記録の管理方法を調査し,その問題点を考察することは,「個人情報保護」と「読書の自由の保障」を前提とした学校図書館活動のあり方を検討する上で,重要な研究課題の一つであると考えられる。
(2) 研究方法
 発表者が在住する沖縄県は,高校図書館だけでなく,小中学校の図書館にも専任・専門の学校司書を配置してきた数少ない自治体であり,現在も400名を越える学校図書館員が勤務している。本研究では,2004年3月〜2005年8月までに,沖縄県内の学校図書館に勤務する図書館員(学校司書)約100名に対して,個別に聞き取り調査を実施し,@貸出記録の管理方法とA貸出記録の返却後の保有状況を明らかにするとともに,B貸出記録の返却時の消去とC学校図書館における望ましい貸出記録の管理方法についての意見を確認した。
(3) 得られた(予想される)成果
 聞き取り調査の結果,以下の3点が明らかとなった。
1) 全ての小中学校図書館において,貸出記録は特に返却後も長期間に渡って保有されている。高校図書館については,一部でブラウン式が導入されているが,プライバシー保護について問題意識を持つ1人の学校図書館員が導入しているにすぎず,全県的には小中学校と同様に,返却後も貸出記録は保有されている状況である。
2) 沖縄県の小中学校では,経済的貧困と国語力不足を背景として,学校ぐるみで読書指導に熱心に取り組むところが多く,目標冊数の設定や通知表への貸出冊数の記載など,学校教育との結びつきが強固であるため,貸出記録を学校図書館員の判断だけで消去することが難しい状況にある。その一方で,図書館員の専門性を発揮する場が,読書指導への協力という教育的な部分にあると考えられており,貸出記録の管理にあるとは考えられていない状況も確認できる。
3) 高校では,小中学校とは異なり,学校ぐるみでの読書指導は行われておらず,教育と貸出記録の結びつきは弱い。調査を開始した時点では,貸出記録を保有することの問題意識は低い状態であったが,聞き取り調査による対話を重ねる中で,貸出記録を消去する必要性について関心を持つ図書館員も増えており,現在は,貸出システムのリプレイスにあたり,貸出記録を返却後も保有するべきか,ということが議論されている。
 今後は,以上の調査結果をもとに,学校図書館における望ましい貸出記録の管理方法に関するガイドラインを作成し,地区ごとに定期的に開催される司書研修会等を通じて提案するとともに,その具体的な実践方法につていも考察していく予定である。
(研究発表に間に合えばこの議論の経緯も報告する予定)
◆氏名 桑田てるみ
◆所属 慶應義塾大学大学院文学研究科
◆発表題目 
 フィクションの「面白さ」と読後の「感情」との関連
◆発表要旨
 学校図書館では生徒への読書指導を積極的に実施することが求められており,生徒の読書ニーズを把握し的確に応答することが必要である。生徒は「何か面白い本ないか」「悲しい本が読みたい」といった,図書から得られる面白さや感性的影響を重視した要求を示すことが多い。このような読書ニーズに応えるためには,従来の書名,著者名などを元にした検索システムだけでなく,感情を示す語(感性語)から図書を探せるシステムが必要となる。感性語からフィクションを検索するシステムとしては,英国のwhichbookが既に存在している。日本においても同様のシステムが求められ,試作品が作成されつつある。しかし,図書に面白さを求める場合,各種の感情が検索項目となっているシステムでは検索が煩雑になりかねないとの指摘がある。面白さには様々な感情が含まれているためと考えられる。さらに,検索結果の表示順をもっと効果的に行うような重みづけの精緻化の必要性も指摘されている。これらの解決のためには,面白さと感情との関連性を明らかし,索引語となる感性語に対して面白さを考慮した重みづけをするなど,面白さからのアプローチを強化することが有効と考えられる。
 そこで本研究では,本を読んで感じる面白さと感情との間にどのような関係があるのかを明らかにすることを目的とする。研究方法は質問紙調査とし,司書教諭養成のための科目「読書と豊かな人間性」を履修している大学生に対するWeb上での調査を2004.10から2005.7まで実施した。調査内容は,自分が読んだフィクションに関してのテーマや内容,面白さの程度,読書後に受けた感情の程度などである。調査に利用した感性語は,whichbookに用いられている12対の感性語に,日本で必要とされる2種類を加えた14対とした。なお,面白さの程度は5段階評価,感情の程度は各感性語対に対して7段階の評価とした。収集したデータの分析は,面白さと感情との相関関係を明らかにするだけでなく,図書が持つ要因(テーマや内容など)と,読者が持つ要因(性別など)とを変数として,これらの要因が面白さと感情の関係にどのような影響を及ぼすのかについても検討を行う。
 分析した結果からは,面白いと感じる図書から喚起しやすい感情,図書の内容の違いや性別などによる個人差が面白さと感情に与える影響,などが明らかになろう。これらが明らかになることで,感性語を用いた検索システムへの重みづけや,「面白い本はないか」といった漠然とした読書ニーズに対しての対応策を考えることが可能となる。
◆氏名 松戸宏予
◆所属 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課程
◆発表題目 
 特別支援に際した学校司書の意識と対応の現状:学校職員との相談や連携に注目して
◆発表要旨
(1) 研究目的
 現在,日本の通常学校においては,LD,ADHD,軽度知的障害,高機能自閉症など特別な教育的ニーズをもつ児童生徒が在籍しており,学校図書館へ来館する児童生徒は多様である。通常学校の図書館では多様な児童生徒との対応は,日常の図書館業務の一環を成すものでもある。しかし,特別な教育的ニーズをもつ児童生徒との対応に際しての,実態はどうなのだろうか。教師や養護教諭などの悩みや葛藤に関する研究は,これまで教育心理学分野で成されてきているが,学校図書館担当者に焦点をあてた調査研究はほとんど取り上げられてこなかった。本研究においては,学校司書が特別な教育的ニーズをもつ児童生徒への意識と対応の現状を,学校職員との相談や連携の視点から明らかにすることを目的とした。
(2) 研究方法
 調査方法は学校司書を対象に郵送式による選択形式の質問紙調査である。対応の困惑度や実際の現状の程度を問う質問群の回答は5件法(1まったくない〜5かなりある)で評定を求め,評価している程度が高い方から5〜1点を与え,間隔尺度とみなした。設問は4つの質問群で構成される。@対応に関連した問題,A研修,B相談,C連携である。@学校司書の問題の認識度や司書が抱える問題について,A研修参加の状況と,研修に参加できない場合の対処について,B学校司書が相談する相手と相談する視点について,C連携の実際と可能性についてである。調査対象は関東と関西地域の14の自治体に所属する学校司書とした。502校中209校より回答を得る(41%)内,欠損2。調査時期は2005年5月に行った。 
(3) 得られた成果
 @対応の問題について 学校司書になる以前に,特別な教育的ニーズをもつ児童生徒と個人的な接点をもった者は3割弱であったが,学校司書として学校図書館に関わりを持つようになってから,8割が特別な教育的ニーズをもつのではないかと思われる児童生徒と対応したことがある。また,実際に約7割が意識をもって個別の配慮を行っている。しかし,特別な教育的ニーズをもつ児童生徒に個に応じた配慮や工夫(特別支援)を行った者ほど,対応の困惑を感じている(r=.450,p<.01)。 また,対応の困惑の程度を被説明変数として,困惑する場面17項目を説明変数として重回帰分析を行ったところ,「対応に時間がとられ,ほかの事務仕事にさしつかえる」,「何気なく注意したつもりでも,突然怒り出し,対応に戸惑った」「児童生徒が図書館にいる間はなかなか図書館を空けにくい」の3つが有意に選び出された。(R2乗.306, F(3,148)=23.168,p<.01)特別支援に際した問題の共通因子では,因子分析から「支援の葛藤」,「拘束感」,「不十分な連携」が挙げられる。
 A研修と連携について 特別支援教育に関連した構内研修の参加可否の割合は,半々であった。しかし,研修参加の可否は,連携の程度にも関わる。つまり,学校司書が研修に参加できる学校は,連携がとれている傾向にある。確認として,悩みの軽減の程度を被説明変数として,「連携の程度」と「研修参加の可否」を説明する要因として重回帰分析を行ったところ,「研修参加の可否」は除外されたが,「連携の程度」は有意であった。(R2乗.067, F(2,161)=6.821,p<.01)なお,連携の程度によって,学校司書の対応の変化に差があった。
 B相談する相手  相談する相手は,養護教諭,スクールカウンセラー,特別支援教育コーディネーターなど評価をしない職員に相談する傾向がある。また,評価をしない職員群,学級担任群,司書教諭群,管理職群では,相談する理由の傾向がそれぞれの群に見受けられた。実際,相談相手によって,悩みの軽減度は異なった。評価をしない職員群に相談した場合は,悩みは軽減したが,他の職員群(学級担任,司書教諭,管理職) に相談した場合は悩みは軽減していなかった。
 C今後の連携 支援の推進に対しては,学校司書の児童生徒の理解背景や,職員との連携を意識する回答の割合が約6割を占めた。職員との連携で,場面を伝える情報交換が5割を占めている。
以上の結果から,特別支援に際しての対応の場合,学校司書一人では対処できない問題が多い。しかし,校内研修や学校職員間の連携によって,学校司書が抱える悩みを軽減できる場合もあるので,管理職や行政に研修の手だての見直しや,学校教職員に対する意識を働きかけていくことが大切である。
◆氏名 米谷優子
◆所属 甲南高等学校・中学校,関西大学(非常勤講師)
◆発表題目 
 学校における読書環境の現状及び今後の方向性に関する比較検討
◆発表要旨
1)研究目的
 近年,「読書力の低下」が問題視されている。この問題意識を背景として,2001年12月には「子どもの読書活動の推進に関する法律」が,また2005年7月にはその対象を「すべての国民」に拡大した「文字・活字文化振興法」が成立した。読書活動の意義やその想定する対象については少なからぬ議論の余地があるものの,基本理念として地域ならびに学校等における環境の整備をうたっている点で,注目すべき点があるといえる。子ども読書活動推進法は,国及び地方自治体での読書活動推進計画の策定を義務付けており,これに基づいて,2005年3月31日時点で,45都道府県,184市区町村で計画が策定されている。公教育の実施主体である地方自治体での計画策定への取り組みとその内容は,今後の読書環境整備等に関する施策の方向性を具体的に位置づけるものとして注目される。
 学校教育の場における読書環境の整備に関して,国においては,学校図書館法の司書教諭配置猶予に関する附則撤廃(12学級以上校対象;2003年4月〜),学校図書館図書整備計画(2002年〜2006年)など,読書活動推進の基本的計画と前後して,いくつかの施策が打ち出されている。しかし,既に1993年〜1998年の学校図書館図書整備計画でその達成を目標として交付税措置を実施したはずであるが,いまだその達成校割合が3割前後にとどまっていること,司書教諭発令は12学級以上校においては98%の達成率であるものの全体で見れば4割以上の学校で司書教諭の発令がない事態が続いていることなど,達成度は十分であるとはいえない。そしてその内訳をみると,公教育の実施主体である地方自治体によって,その施策の実施・成否に大きな格差があるのが実情である。
 本研究は,学校の読書環境に関する現状を比較検討し,今後の方策の1つとして各自治体の読書活動推進計画における学校・学校図書館に関する記述を対照することによって,学校の読書環境整備に関する施策の格差の実態を明らかにし,その是正に向けての方策を探ることを目的とする。
2)研究方法
 文部科学省及び全国学校図書館協議会によって実施された,学校図書館に関する調査結果をもとに,学校図書館資料の充実度,学校図書館スタッフ等,学校における読書環境について現状の比較分析を行った。また今後の施策方針を探る指標として,2005年3月末までに策定された自治体の子ども読書活動推進計画の学校・学校図書館に関する記述部分を対象として,比較対照を行った。
3)成果
 学校における読書環境の現状と施策の方向に関して,自治体格差を具体的な細項目レベルで明らかにし,是正のための方策を探る一助とする。
◆氏名 鈴木守 
◆所属 常葉学園大学
◆発表題目 
 NEA・ALA合同委員会報告書(1941)における学校図書館サービスの原則
◆発表要旨
(1)研究目的
 本研究発表においては,学校図書館に関するNEA・ALA合同委員会(NEA-ALA Joint Committee)が1941年に発表した学校図書館サービスにおける学校と公共図書館との関係に関する研究報告書(/Schools and public libraries :working together in school library service : report of the joint Committee of the National Education Association and the American Library Association)を取り上げる。同報告書は,当時の学校図書館サービスにおける学校と公共図書館との関係に関する調査に基づく研究報告書であり,8項目から構成される学校図書館サービスの原則を掲げている。特に,学校図書館サービスにおける学校と公共図書館との関係について,学校図書館サービスは教育委員会の責務であるという原則を打ち出した点が重要であると考えられる。
本研究発表では,NEA・ALA合同委員会による同報告書について調査・検討を行うことにより,当時のアメリカの学校図書館関係者の間で学校図書館サービスにおける学校と公共図書館との関係がどのように捉えられていたのか,また,学校図書館サービスが教育委員会の責務であるとの原則がどのように確立されたかについて明らかにすることを目的とする。
(2)研究方法
 学校図書館に関するNEA・ALA合同委員会が1931年に設立されてから,1941年の報告書において学校図書館サービスの原則を表明するまでに至るまでの経緯や背景,またNEA・ALA合同委員会の中で学校図書館サービスにおける学校と公共図書館の関係がどのように考えられていたかについて調査・検討を行う.NEA・ALA合同委員会の活動や1941年の報告書については,ALA文書の内,NEA・ALA合同委員会の関連文書の調査を行った。この調査により得られたNEA・ALA合同委員会の関連文書を中心とし,当時の学校図書館等に関する文献等をもあわせて検討を行った。
(3)得られた(予想される)成果
 ALA文書の内,NEA・ALA合同委員会に関する文書の中から,年次報告書,議事録,及び1941年の報告書の草案や計画書を得ることができた。これらの文書から,1930年代当時のアメリカの経済,教育,及び図書館事情を背景として,NEA・ALA合同委員会において1)学校図書館サービスにおける原則の策定,2)学校図書館サービスにおける学校と公共図書館との関係に関する研究が行われるに至った経緯,3)NEA・ALA合同委員会やその他の機関によるアメリカの学校図書館に関する調査結果を受けて,学校図書館サービスを教育委員会の責務とした原則が表明された事情が明らかになった。
◆氏名 橋詰秋子
◆所属 慶應義塾大学 文学研究科 図書館・情報学専攻
◆発表題目 
 日本語書誌レコードにおけるFRBRモデルの有用性:著作パターンの分析
◆発表要旨
(1)研究目的
 現在の図書館目録は,資料管理ツールとしての側面が強かったカード目録の時代からの慣行を引きずっており,インターネットの普及による情報環境の変化に適応しているとは言いがたい。つまり図書館目録には,目録の機能を資料管理志向から利用者志向へと変えるような高度化が求められているのである。1997年にIFLAの研究グループが発表した「書誌レコードの機能用件(Functional Requirements for Bibliographic Records: FRBR)」は,こうした変化に対応すべく,目録の諸機能を利用者の観点から再検討した書誌レコードのための概念モデルである。中でも実体の第一グループ(「著作」‐「表現形」‐「体現形」‐「個別資料」)は,現実の図書館目録に適応可能な形で,目録が記述対象とする知的・芸術活動の成果を定義しており,既に米国研究図書館グループ(RLG)の総合目録であるRedLightGreenなどに実装されている。しかし我が国ではまだ紹介段階にあり,実際の日本語書誌レコードを対象にFRBRモデルの有用性や可能性を探る研究は行われていない。
 そこで本研究では,わが国の図書館目録へのFRBR実装の第一歩として,日本語書誌レコードにFRBRの第一グループ実体を適用し,日本語書誌レコードがもつ著作のパターンを明らかにする。さらには,我が国の書誌レコードにおけるFRBRモデルの有用性を確認する
(2)研究方法
 既存のOPACから抽出した日本語書誌レコードに対して,FRBRの第一グループの実体のうち「個別資料」を除く「著作」‐「表現形」‐「体現形」を適用する。なお本研究では,日本語書誌レコードの特徴がよく現れると考えられる和図書の書誌レコードのみを対象とする。なお,書誌レコードを「体現形」レベルと仮定する。
 FRBR適用の具体的な手法は次のとおりである。慶應義塾大学のOPACであるKOSMOSUから,NDCの類ごとに100件ずつ,合計1000件の書誌レコードを標本として無作為抽出する。次に抽出した書誌レコードに対して,そのレコードと同じ「著作」だが「表現形」や「体現形」が異なる書誌レコードを標本外から集め,「著作」単位での書誌レコードの集合を計1,000個作る。更に,個々の「著作」単位の集合を「表現形」単位のグループに分割する。
 こうした作業の結果得られた書誌レコードの集合を「著作」単位や「表現形」単位で分析し,複数の表現形・体現形をもつ複雑な著作であるか,逆に一つの表現形・体現形しか持たない単純な著作であるかどうかなど,和図書の著作がもつパターンを明らかにする。更に,NDCの類ごとに著作パターンを分析し,分野によって著作パターンに相違が見られるかどうかを検証する。最終的には,そこから日本語書誌レコードにおけるFRBRモデルの有用性を確認する。
(3)予想される成果
 以下の点を明らかにする。
・日本語書誌レコード中のFRBRモデルが有効とされる大規模著作の割合
・和図書の著作がもつ表現形および体現形の平均数
・和図書の著作がもつ著作パターン
・分野による著作パターンの相違
◆氏名 上田 洋, 村上 晴美
◆所属 大阪市立大学大学院 創造都市研究科
◆発表題目 
 Web情報資源を用いた件名と分類の提案
◆発表要旨
 我々はこれまで,利用者のキーワード入力によりBSH4件名標目とNDC9分類項目の検索が可能なOPACを開発してきた。このシステムでは単純なパターンマッチ(部分一致)で検索しているため,検索結果がヒットしない場合が多いという問題があった。
 本研究では,検索結果がヒットしない場合でも,利用者が入力したキーワードに関連するBSH4件名標目(以下件名)とNDC9分類項目名(以下分類)を提示する手法を検討する。利用者の入力は多様であり,新語に対応するため,Web情報資源に着目する。
 利用者の入力したキーワードに対して,ベクトル空間モデルに基づき,件名および分類の類似度を計算して,それぞれ10件ずつ提示する。
 まず,件名および分類から文書ベクトルを作成する。件名の場合は,BSH4件名標目に下位標目を加える。分類の場合はNDC9分類項目の第3次区分以下の分類項目を対象とし,その下位2区分の分類小項目を加える。その後,件名・分類ともに形態素解析を行って抽出した索引語の頻度に基づき文書ベクトルとする。
 次に,利用者の入力するキーワードから検索質問ベクトルを作成する。利用者の入力する多様なキーワードに対応するために,情報源として,インターネット上のフリー辞書であるWikiPediaと,Amazonの書籍データを利用できるAmazon Web Service(以下AWS),Web検索エンジンであるGoogleを用いる。具体的には,キーワード入力と同時に,WikiPediaから1件の文書を,AWSの場合は3件の文書を,Googleの場合は5件のWebを取得し,形態素解析と不要語処理を行ったのちに,索引語を情報源の種類毎に重み付けを行い,検索質問ベクトルとする。
 本手法の有効性を確認するために,プロトタイプシステムを作成して,大阪市立大学学部学生41名に質問紙調査を行った。IT用語のオンライン辞典サイトであるe-wordsのアクセスランキング100語に関して,被調査者に5語ずつわりあてた。まず,キーワードとして,そのキーワードをどの程度知っているか5段階(5:かなりよく知っている 4:よく知っている 3:どちらともいえない 2:あまりよく知らない 1:全くよく知らない)で評定(既知度と呼ぶ)させ,次に,システムの出力である件名,分類各10語を提示して,その語がキーワードに対してどの程度関連しているかを3段階(3: 関連している,2:どちらともいえない,1:関連していない)で評定(関連度と呼ぶ)させた。既知度が3以上であったキーワードについて集計したところ,(a) 最上位語の評定が最も高い(平均件名:2.34,分類: 2.31), (b) 関連度3のものを適合とみなし,適合率を判定したところ,件名の上位1件(最上位語)で55%,3件で49%,10件で41%,分類の上位1件(最上位語)で51%,3件で46%,10件で40%であった。以上の結果より,コンピュータ用語を対象とした場合の件名と分類の提示手法の一定の有効性を確認した。
◆氏名 松本浩一
◆所属 筑波大学図書館情報メディア研究科
◆発表題目 
 『玉海』芸文部の書誌情報組織法について
◆発表要旨
 王応麟編の『玉海』二百巻は,いわゆる類書の一つである。類書は項目を分け,それに関係する古典の記事を集めた,引用で構成した項目別百科事典というべき書物であり,大きく分けて詩文を作るにあたって,ある言葉の典拠を検索するために作られたものと,科挙の試験を受けるための基本的知識を提供する目的で作られたものとがある。『玉海』は後者のためのものであり,天文・律歴・地理・帝学・聖文・芸文・詔令・礼儀・車服・器用・郊祀・音楽・学校・選挙・官制・兵制・朝貢・宮室・食貨・兵捷・祥瑞の21門からなっている。今回取り上げるのは,「芸文」の部分で,「芸文」においては,四部分類に基づき,各項目の概要を述べた部分(小序)に続き,項目に掲げた学術の発展を様々な書物の記事の引用によってたどった部分と,『漢書』芸文志などの書目に現れる目録記述の引用とを組み合わせて,目録学において重視されてきた「辨証学術,考鏡源流(学術の大要を明らかにし,学派の流れをたどる)」という機能を,明快な形で実現させている。この部分は,中国目録学の上でも以前から注目されてきた。例えば内藤湖南は,玉海では当時に残った本については,その内容の大体を知らせるが,むしろその本のできるまでの他の本との関係に注意して,亡びた本との内容の関連をつけ,歴史的な学問の道筋が通るように考えたのだと評している。この発表では「芸文」の具体的な構成について考察していきたい。
(2)研究方法
 ここでは,この「芸文」のうち,経の部分の「三礼」,「春秋」そして史の部分の「正史」,「雑史」などを取り上げて,学術史をたどった部分および書目の部分について,引用資料の原著の記事や原書目の記述とを対比し,著書の源流をたどる上において,どのような記事内容を取り上げているのか,また書目の記述内容・排列についてはどのような再構成を行っているのか,そしてその目的はどこにあるのかといったことについて論じていきたい。
(3)予想される成果
 従来も,王重民氏などによって,「芸文」ではどのような内容が記述されているかということについては論じられているが,具体的な構成について詳細に分析してはいないので,その点については,「芸文」に見られる書誌情報の組織化の特色をより明らかにできる。また倉石武四郎氏は,王応麟が「芸文」で試みたような学問は,鄭樵が佚書を目録に入れ,それによって学問の興廃を考えたことにその濫觴があると指摘しているが,この鄭樵の目録学理論との関わりについても考察を加えたい。
◆氏名 石田栄美,池内淳,安形輝,久野高志,野末道子,上田修一
◆所属 駿河台大学文化情報学部,大東文化大学,亜細亜大学,作新学院大学,鉄道総合技術研究所,慶應義塾大学
◆発表題目 
 日本語PDFファイルを対象とした学術論文の自動判定
◆発表要旨
(1)研究目的
 現在,学術論文を対象とした様々な検索サービスが提供されている。たとえば,CiteSeerは,情報科学に関する英語の論文を中心に収集し,ほとんどの論文の全文を入手できる。また,国立情報学研究所では日本語を中心とした学術論文データベースの検索から本文へのリンクを提供するCiNiiの提供を始めた。
 このように,学術論文の全文へのアクセスがなされつつあるが,日本語の論文を掲載するウェブページの検索,提供は,部分的にしか行われていない。そこで,分野を問わず,研究者が,ウェブ上で提供している日本語学術論文を自動的に収集し,全文を対象とした学術論文の検索を行うシステムやレポジトリの構築を目的とした調査と研究を進めている。
 現在,学術論文の提供手段として最も一般的な配布形式はPDFファイルである。そこで,PDFファイル群からの学術論文の判定を第一の課題として考えた。文書のレイアウトやデザインを維持したまま閲覧できるファイルであるためPDFは,広い用途で利用されてつつある。その中から,主として本文に含まれる手がかりをもとに学術論文を判定する手法を検討した。
(2)研究方法
 PDFファイルを対象とした学術論文の自動判定は,以下の手順で行った。(1)PDFファイルの収集,(2)人手によるPDFファイルからの学術論文の集合作成,(3)学術論文を自動判定できる要素の検討,(4)学術論文自動判定実験,(5)評価である。
 PDFファイルはサーチエンジンを用いて収集した。ipadic2.5.1の辞書ファイルの6ファイルから無作為に選定した10,000語の検索語を用いて,各検索語に対し最大100件までPDFファイルのURLを収集した。重複URLを除いた307,514件のURLを実際にダウンロードし,暗号化されているPDFファイル,壊れているデータを除去し,最終的に248,314件のpdfファイル集合となった。
 このpdfファイル集合から,3,000件をランダムに抽出し,6人の判定者が各500件を判定した。学術論文と判定できるかどうか迷うものに関しては,改めて6人が判定し5人以上が学術論文と判定したファイルを学術論文に含めた。その結果,98件(3.3%)が学術論文と判定された。
 学術論文とされたPDFファイル集合とその他のPDFファイル集合の特徴を比較し,学術論文として,自動判定に用いることができる要素を抽出した。この要素として,出現単語(出現回数,出現の偏り,文字種),URL(ドメイン名),ファイルの大きさ(ファイルサイズ,ページ数,文字数),文末表現などを用いた。これらの要素を,テキスト自動分類やフィルタリングで用いられている手法であるSVM,ベイジアンフィルタリングを用いて,実際に学術論文の自動判定を行った。
(3)予想される成果
 プレ実験として,出現回数で重み付けした出現単語全てを要素として用い,SVM手法により自動判定を行ったところ,高い判定結果は得られなかった。今後は,重み付けの方法や他の要素を含めた実験を行い,精度の向上を目指す予定である。
◆氏名 安形輝
◆所属 亜細亜大学国際関係学部
◆発表題目 
 レレバンス判定に対する文献提示順と判定尺度の影響
◆発表要旨
(1) 研究目的
 情報検索実験ではレレバンス判定の結果に基づき性能評価が行われており,レレバンス判定は欠かすことができない重要な構成要素の一つである。しかしながら,レレバンス判定に影響する要因に関しては小規模かつ質的な調査が多く,成果をそのまま検索実験に応用することが可能なものは少ない。
 文献の提示順がレレバンス判定に影響を与えることはすでに1988年にEisenbergらによって指摘されている。この研究成果をそのまま応用する研究は多いが,追試や詳細な分析は十分に行われていない。一方で,レレバンスの度合いを表現するための判定尺度も影響を与える要因の一つとして,研究は行われているが,3種類以上の判定尺度を比較したものはほとんどない。
 また,文献提示順,判定尺度はレレバンス判定に影響する要因として,以前から指摘されてきたが,相互の関係からの分析は今までに行われていない。
 そこで,本研究ではレレバンス判定に影響する要因として文献提示順と判定尺度を取りあげ,二つの要因を組み合わせた分析を行うことを目的とする。
(2) 研究方法
 本研究では,質問紙,インタビューなどの従来の調査手法ではなく,ウェブを用いた調査システムを独自に構築し用いた。結果として,大規模な被調査者を対象として調査を実施することが可能となった。被調査者として,インターネット検索について基礎的な技術を持つ幅広い属性の人々を募った。被調査者の属性は,性別は女性120名,男性42名,不明1名,年齢は20代から60代までである。被調査者は,判定尺度三種類と文献提示順三種類の組み合わせで9グループに分けた。
 判定尺度としては,「適合している」から「適合してない」までの五段階の順序尺度,0から100までが表現できるスライダーを用いた比例尺度,自由な数字を回答するマグニチュード推定法の三種類を用意した。
 また,文献提示順に関しては,あらかじめ調査者が決めたレレバンス評価に基づいて文献を並べ替えている。はじめに最もレレバントでない文献を提示し徐々にレレバントであるものを提示する順,その逆順,二つの混在の三つの提示順を用意した。
 それぞれの組み合わせは機械的に割り当てた。結果として,各グループは17名から19名で構成されている。
 レレバンス判定の対象となった文献群は,特定のキーワードで検索されたインターネット上の新聞記事であり,一部には写真も含まれている。
 被調査者はグループごとに決められた順番で文献を一件ずつ提示され,その文献ごとに決められた判定尺度を用いてレレバンス判定を行った。
(3) 得られた(予想される)成果
 収集された調査データは,単純集計では,判定尺度別のグループごと,文献提示順別グループごとに,最もレレバントと判定された文献に差が見られた。また,判定尺度,文献提示順の関係からの分析でも各グループで異なる結果が得られている。
◆氏名 1)種市淳子,2)逸村裕
◆所属 1)名古屋柳城短期大学図書館,2)名古屋大学附属図書館研究開発室
◆発表題目 
 サーチエンジンにおける探索結果を評価する行動の分析
◆発表要旨
(1)研究目的
 サーチエンジンの普及に伴い,Webは,今や学生を中心とする情報利用者の第一の情報源となっている。大学図書館における情報探索指導を効果的に行うためには,利用者がどのようにWebを利用しているかについて,客観的な理解と分析的な知識が必要とされる。そこで,本研究では,利用者の情報探索行動調査を継続的に行い,その対応を検討している。2003年と2004年に行った,短期大学生及び大学生に対するプロトコル分析法による調査では,Web情報源の質的評価が欠落する傾向を示した(三田図書館・情報学会 2004年度 研究大会にて発表)。
 今年度は,これらの研究成果にもとづいて,「情報を評価する」行動に重点をおいた実験調査を行った。そこでは,4つの検索課題(@易課題,A難課題,B科学分野の課題,C健康分野の課題)を用いて,サーチエンジンにおける探索結果を評価する行動の特徴と問題点を検証した。
(2)研究方法
 2005年7月に,N大学において全学教養科目「情報リテラシー(文系)/(理系)」を受講した複数学部の1年生13名を対象に,サーチエンジンGoogleを使用した検索実験を行い,被験者らが回答を得るまでの検索プロセスを筆記した回答文書と観察法をもとに,記述分析を行った。そして検索過程における被験者のマウス操作(例:テキストなぞり読み,ポインティング,クリック,スクロール)のデータをもとにトランスクリプションを作成し,被験者の暗黙的な注視点からコンテンツのどの部分を確認し,評価を行っているかを検証した。これにより,被験者一人一人の検索過程中のコンテンツ評価行動を捉えようとした。
(3)得られた(予想される)成果
 回答の情報源とされたWebページの96%は,Googleの検索結果1頁目に表示されたものであり,課題の難易度にかかわらず,サーチエンジン側の結果表示ランキングに対する被験者の依存度は著しい,という結果が確認された。 また,被験者の多くは,実験前に受講した「情報リテラシー」で学習したサーチエンジンの機能(例:翻訳,キャッシュ,イメージ,フレーズ,ページ内検索)を戦略的に使用しており,事前の検索指導により,一定の検索技術を習得していることがわかった。しかし,コンテンツの評価では,事実と広告主張の判別,複数の情報源による確認,原典となるページの確認に対する意識は薄い傾向が見られ,情報源の質的評価における課題が明らかとなった。
 現在,マウス操作によるデータをもとに,被験者の暗黙的な情報関心の検証を行っており,上記の結果と総合して,報告する予定である。
 本研究で得られた知見は,利用者のコンテンツ評価行動の特徴と問題点を提示し,情報探索指導プログラムを作成するための基礎資料となる。
◆氏名 今田敬子
◆所属 上武大学看護学部 筑波大学大学院図書館情報メディア学科博士課程
◆発表題目 
 臨床看護研究と情報収集行動の実際
◆発表要旨
1)研究目的 
現在臨床看護研究は,医療機関により入職後2-3年で研究に携わることが義務化している施設もあるほど,看護者にとって日常的な活動として浸透している。一方「新規性に欠ける研究が原著論文とされている」「先行研究の文献情報が把握できていない」などの指摘もされている。看護者の日常的情報収集行動と,臨床看護研究における情報収集行動を明らかにし,臨床看護研究に取り組む実践看護者のニーズに文献情報提供が合致していないのであればその要因を明らかにしたい。
2)研究方法
臨床看護研究と文献活用に関する質問紙調査を,大学病院看護師589名を対象に行い回収率は71%(418)であった。日常的情報収集行動に関し,利用する情報源,雑誌購読状況,PC活用を,研究時情報収集行動は,日本看護学会情報,情報源,文献データベース認知度,文献検索の目的について調査した。更に臨床看護研究の指導的立場にある看護管理者の情報収集行動を看護管理領域の論文155件の引用文献913件の分析を行った。さらに各著者の引用文献の情報収集行動についても質問紙調査を行いたい。
3)得られた(予想される)結果
研究時文献探索の目的は,先行研究や類似の研究情報確認が72.2%,理論的説明58.2%などであった(複数回答)。最も頻度の高い情報収集方法は図書や論文中の参考文献と61%が回答,データベース検索は16%でしかない。(結果の一部は看護情報研究会で発表)。日常的な情報収集行動として雑誌利用上位5誌を分析したが,利用雑誌名の無回答者は144(34.8%)で,65%以上は常に雑誌を利用していると認識し,延557件回答され,回答者あたり平均2件であった。最も頻度の高い雑誌はExpert Nurseで頻度1位64件,2〜5位で25件計89件だった。利用上位誌中,自費購読誌は延111件で,最多はExpert Nurse23件であった。自費購読誌や利用頻度1位でも誌名誤記が多かった。利用頻度の高い雑誌が,研究における引用文献の頻度が高い雑誌と必ずしも合致していない。解説記事やトピックスで構成された実践業務中心の商業誌で,求人情報が多い傾向もある。また専門領域に特化した雑誌の利用が上位に多かった。   
引用文献調査では雑誌は3年前がピークで,図書は2年前がピークであった。データベース検索利用の影響かは不明である。看護管理者の引用頻度の高い雑誌は,日本看護学会論文集や日本看護研究学会雑誌など学術雑誌の比率がより高く,実践看護者の利用頻度の高い雑誌とは異なる。これが職位による違いか,日常的情報収集行動と,研究時情報収集行動の違いかは追加調査を通して明らかにしていきたい。

日本図書館情報学会,三田図書館・情報学会 合同研究大会