【2005研究大会】情報行動研究の概念枠組みの構築:「情報遭遇」概念の学説史的研究を通じて
◆所属 慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻修士課程
◆発表題目
情報行動研究の概念枠組みの構築:「情報遭遇」概念の学説史的研究を通じて
◆発表要旨
(1)研究目的
「情報遭遇」(Information Encountering)に関わる議論の中で,この概念がいかなる経緯の下に形成されたのかという点は未だ明確に示されていない。概念形成の歴史的な面については,「掘り出し物的発見(Serendipity)」と「ブラウジング」の関連性への言及,及び「能動的な情報行動」を論じる中での受動的な情報取得の重要性への言及の2点とがしばしばなされてきたことが指摘されるに留まっている。
本研究では,「情報遭遇」概念の形成を,「能動的な情報行動」・「ブラウジング」・「掘り出し物的発見」という3分野の研究動向の中に位置づけて学説史的に探求することを通じて,「能動的な情報行動」研究のみではとらえきれない人間の情報行動の多面性を理解するための概念枠組みを構築することを目的とする。
具体的には,以下にあげる3点が検討課題となる。
・ 「能動的な情報行動」,「ブラウジング」,「掘り出し物的発見」等の諸概念に関わる研究が進展する中で,「情報遭遇」の研究がどのように課題として浮かび上がってきたのか
・ 「情報遭遇」という概念のどの部分が過去の議論に影響を受け,また共通しているのか
「情報遭遇」という概念に関わる議論のどの点が固有で,従来の情報行動のとらえ方と異なり,意義があるのか
(2)研究手法
文献調査を主な研究手法とする。対象とする文献は以下の3つの研究分野に属するものである。すなわち,「能動的な情報行動」に関する研究,「ブラウジング」に関する研究,そして社会学を中心とした社会科学全般における「掘り出し物的発見」に対する言及や研究である。
こうした文献を対象とし,「情報遭遇」に関連する言及を抽出する。そして,まず,抽出した言及を分野毎に分けて年代別にまとめ,各分野における“縦”の学説史を構築する。次に,この3本の“縦”の学説史に対する詳細な検討を行うことにより,各分野の議論の相互の関連性や影響を見出す。そして,そこからどのように「情報遭遇」の議論が発展してきたのかを描き出す。 以上の分析の下,95年に初めて提示された「情報遭遇」という概念に至るまでの学説史を提示する。また,その過程における概念整理を元に,これまでの議論の不備な点を具体的に指摘し,今後の「情報遭遇」の研究課題を提示する。
(3)予想される成果
情報行動研究において,能動的な情報行動の概念化は主たる研究課題であり続けてきた。一方,概念化の進展の中で,その概念では説明しきれない現象が存在することも認識されてきた。また,関連分野においても,そのような現象に関わる議論は行われてきた。すなわち,「情報遭遇」概念の形成は,無から生じたものではなく,能動的な情報行動の一定の概念化とそのような問題意識の蓄積の上に成り立つものであった。
上記の議論の発展経緯を検討し,議論の各時点において論じられていた点,そして議論が不十分であった点を明らかにする。そして,この新たな観点からの概念整理を基にした,今後の情報行動研究各分野の研究対象やその課題に関わる枠組み構築の方向性と展望を論じる。