三田図書館・情報学会:Mita Society for Library and Information Science

【2005研究大会】住民セクターに対する公共図書館の認識の変遷:1960年代から現在まで

◆氏名 荻原幸子
◆所属 専修大学経営学部
◆発表題目 
 住民セクターに対する公共図書館の認識の変遷:1960年代から現在まで
◆発表要旨
(1)研究目的
 今後の公共図書館経営における展望を検討するにあたり,発表者はこれまでに,行政学的観点から今日的な統治システムとされる「ガバナンス」概念にもとづき,対等関係を基軸とした図書館・住民セクター間の新たな関係性の構築を提案し,図書館業務について個別に検討していく必要性を指摘した。本研究では引き続き公共図書館と住民セクターとの「関係性」を研究対象とするが,研究の焦点は,これまでの両者の関係の蓄積や経験について,特に図書館側の住民セクターに対する認識(図書館関係者が住民セクターをどのように捉えてきたか)についての歴史的経緯を明らかにすることである。
(2)研究方法
 公共図書館は地方自治体により設置・運営されている組織の一つであり,図書館サービスは福祉や消防などの公共サービスと同種のものとして捉えることができる。この観点から,自治体行政の活動を「総論」とし,図書館経営論を「各論」とする枠組みを設定し,実質的に今日の公共図書館に至る動きが開始した1960年代から現在までの動向について,
①まずは,行政活動(政策立案(決定)・執行・評価過程)における住民に対するアプローチについての時系列的な変遷を,行政学において様々にまとめられている関連文献を整理することにより辿る。
②次に,図書館の住民に対するアプローチの時系列的な変遷を,主に図書館関連の雑誌記事(論文)から図書館関係者の住民に対する見解が示された記述を採取し,これを分析・整理することにより辿る。
③最後に,①に対する②の動向を検討することによって明らかとなる,図書館の住民セクターに対する認識について考察するとともに,ガバナンス時代における図書館と住民セクターのあるべき関係性の構築に向けた今後の課題を提示する。
(3)得られた(予想される)成果
①行政活動については,革新自治体首長による住民参加概念の萌芽(1960年代)→高度経済成長期における基本構想の策定やコミュニティ行政による住民参加制度の模索(1970年代前半)→経済低成長期における日本型福祉社会論や都市経営論に基づく住民参加機会の拡大(1970年代後半以降)→経済低迷期における「協働」「パートナーシップ」等をキーワードとした新たな施策の登場(1990年代以降),といった変遷が見られた。
②図書館関係者については,図書館設置運動における協調的関係→住民を運営主体とするコミュニティ図書館に対する批判→委託への批判における協調的関係→住民のボランティア活動と図書館員との関係の模索,といった変遷が見られた。
③たとえ経済状況の悪化に基づく行政改革がその根底にあるとしても,行政は住民に対して,サービス受益者(顧客)という捉え方から,政策立案(決定)および執行過程の双方に関わるステイクホルダー(利害関係者)としてその存在を認識するに至っている。一方で図書館側は,図書館設置や委託などのアドホックな政策立案過程においては一貫して住民セクターをステイクホルダーとして捉えているものの,日常の図書館運営全般においては住民をサービス対象者(受益者)として認識するに留まっている。すなわち,政策立案および政策実施過程において,住民セクターの存在をステイクホルダーとして捉える認識が希薄であることが,今日のガバナンス時代の公共図書館経営にとっては解決すべき重要な課題の一つであると提起することができる。

当サイトに含まれる内容は,三田図書館・情報学会が著作権を有しており,その扱いは日本の著作権法に従います。著作権法が認めた範囲を超えて,当サイトの内容の全体もしくは一部を,当学会に無断で複製し,頒布あるいは閲覧させる等の行為を禁じます。
当サイト内の各ページへのリンクは,商用,個人用を問わず許諾を得る必要はありません。しかし,当方の不利益になるようなリンクはお断りします。