【2005研究大会】英国の公共図書館における『将来への枠組み』の有効性
◆所属 慶應義塾大学文学部(非常勤)
◆発表題目
英国の公共図書館における『将来への枠組み』の有効性
◆発表要旨
(1)研究目的
2003年に英国の文化・メディア・スポーツ省は,今後10年で達成することをめざす公共図書館の将来像『将来への枠組み』を刊行した。この中で公共図書館の使命として,読書と学習の振興,電子的サービスへのアクセス,社会的包含の実現の3つが示され,公共図書館関連の政策や補助金は,これらの使命に結びつけた形で再編成されている。本研究の目的は,この将来像の特徴を明らかにしたうえで,これらの使命を達成するためのメカニズムを分析し,現在の英国の図書館が抱える課題を解決するうえでの有効性を検証することである。
(2)研究方法
本文書をはじめ,行政文書,研究論文,図書館関連団体の機関誌の記事など,関連する諸文献の分析を中心とする。英国の公共図書館員に対して,公共図書館の現場で抱えている課題や『将来への枠組み』への認識などについてインタビューを実施し,文献分析の結果を補足する予定である。
(3)得られた(予想される)成果
3つの使命のうち,読書と学習の振興と社会的包含の実現は,国民の教育レベルの底上げや,社会的包含によって,英国経済の再生をめざす労働党政権の政策にリンクした内容であり,図書館のサービス改善を進めるうえで,他の行政政策と連携がとれる可能性も大きい。電子的サービスへのアクセスは,「市民のネットワーク」事業を意識したもので,これまでの図書館活動の成果をふまえた内容になっている。しかしそれぞれが既存の行政改革や図書館活動と結びついている反面,個々の使命間の関連が薄いことから,全体として,この政策がめざす図書館像が見えにくいことを明らかにする。
次に,『将来への枠組みの活動計画』と監査委員会による公共図書館評価のしくみに着目して,『将来への枠組み』に示された使命を実現するためのメカニズムの検証を行う。『将来への枠組みの活動計画』については,内容を整理して,事業の実施可能性の調査や評価手法等の調査研究などの内容が多く,実際の活動を始める以前の段階の支援策となっていることを明らかとする。また監査委員会による図書館評価制度の変遷を分析して,『将来への枠組み』の内容との直接的な結びつきがあまり強くないことを示す。これらのメカニズムの分析を通し個々の自治体の取り組みの方向が統一されにくく,全国的な取り組みとすることが難しいという問題点を指摘する。
これらの分析をもとに,貸出冊数が急激に低下するなど,図書館離れが進んでいるといった,現在の英国の公共図書館の課題を示したうえで,『将来への枠組み』は図書館の重要性を図書館界内外にアピールする機能を果たしているが,課題を根本的に解決しうるかどうかについては疑問が残ることを明らかにする。