【2005研究大会】サイバースペースにおけるフェアユース概念の存立構造:情報学研究,及び,情報政策との接点
◆所属 大東文化大学文学部
◆発表題目
サイバースペースにおけるフェアユース概念の存立構造:情報学研究,及び,情報政策との接点
◆発表要旨
(1)研究目的
罪刑法定主義に内在する問題として,法の欠缺とその補完という論点が指摘される。その一つは,共同体内において,犯罪と認定される蓋然性の高い行為に対して,法的措置を執ることが困難であるという場合。もう一つは,その対偶事象であり,共同体内において,許容される蓋然性の高い行為に対して,法が無自覚に禁止している,あるいは,明示的に許していない場合である。本研究では,こうした問題のうち,サイバースペースの著作権に関するフェアユースという問題に焦点を当てる。
こうした法の硬直化を回避するために,米国に代表される複数の国々において,著作権侵害訴訟の抗弁の論拠となるフェアユースについて勘案すべき観点を掲げるとともに,法廷における逐次解決を図っている。翻って,我が国では,権利制限が逐条的に規定されており,法廷に委ねる制度的・慣習的土壌が存在しないという見解から,フェアユースの法理を導入することに対する慎重論が多く,現状では,権利の濫用,社会通念,公序良俗,信義誠実の原則等によって,それを補完している。
但し,上記の二つの問題のうち,前者については,我が国においても,これまで頻繁に議論され,立法化にまで到達した事例が幾つも存在する。その一方で,後者については看過されがちである。それは言うまでもなく,親告のインセンティブが薄弱であり,国内外を問わず,法解釈の拠り所となる判例が極めて少ないということに起因する。
その結果,法整備がさらに立ち後れるとともに,著作権を過剰に主張する者や著作権の利用に対して過剰に消極的になってしまう者とを生ぜしめ,一種の混沌とした状況を招いているように見える。そこで本研究では,主に法の欠缺のもたらす許容可能性の高い事例を観察することによって,サイバースペースにおけるフェアユース概念の存立構造を,明らかにし,我が国の著作権法との摺り合わせを試みる。
(2)研究方法
我が国の著作権法の権利制限規定,また,その準拠法となる国際条約,さらに,米国1976年著作権法第107条のフェアユースの規定,及び,それに関する判例,さらに,インターネット関連法規や既存の判例,並びに,法的に処理されていないが,これまで,専門家の間やネット上で論点となった事例と,それに対する見解や学説を概観することによって,サイバースペースにおいて,フェアユースを存立させている構成要素を特定し,その構造を帰納的に明らかにしていくというアプローチを採る。
(3)得られた(予想される)成果
以上の操作によって導出されたフェアユースの構成要件を,現在進行中の国立国会図書館によるウェブ・アーカイビング・プロジェクトに関する「インターネット情報の収集・利用に関する制度化の考え方」の評価に適用するとともに,現在の我が国の著作権法の権利概念の妥当性の解釈,並びに,法と倫理との境界について若干の考察を加える。