【2005研究大会】わが国の大学図書館利用教育における教材の分析
◆所属 慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻情報資源管理分野,慶應義塾大学文学部(糸賀)
◆発表題目
わが国の大学図書館利用教育における教材の分析
◆発表要旨
(1) 研究目的
大学図書館において図書館利用教育は様々な実践例が報告されている。オリエンテーション,OPACの使い方,データベース・電子ジャーナルの利用法など,多岐にわたる実践が行われ,そこで使用される教材はそれぞれの大学図書館で工夫を凝らし作成されている。平成14年(2002年)には,国立大学図書館において学術情報リテラシー資料の作成・提供状況の調査が行われた。調査は学術情報リテラシーの電子化システム共同構築の可能性をみるための予備調査であり,各教材間の比較研究を目的とはしていない。
本研究では,大学図書館が作成した各教材で取り上げられている項目とその分量より,構成,特徴,類似性などを比較分析し,その傾向を明らかにすることを目的とする。そこで得られた結果より教材作成への現場からの提唱を行いたいと考える。その際,項目,構成を分析する準拠枠として,「図書館利用教育ガイドライン-大学図書館版-」(1998年,日本図書館協会図書館利用教育委員会作成)を採用した。
(2)研究方法
大学における図書館利用教育のための13教材を対象に,教材で取り上げられている内容を「図書館利用教育ガイドライン―大学図書館版―」の目標を準拠枠として項目ごとに分類した。この日本図書館協会作成のガイドラインを準拠枠としたのは,我が国にはほかに準拠枠として適切なものが存在しなかったからである。対象とした教材は大学図書館が作成したもので,個々の検索ツール解説に限定されていないものとし た。冊子体の教材はA5版1ページを情報量1と換算して,分類した項目ごとの情報量を算出した。ウェブ上の情報は便宜的に1画面A4版1ページとみなした。その上で以下の3つの視点から分析を行った。
① 準拠枠としたガイドラインの目標の領域(領域1:印象づけ,領域2:サービス案内,領域3:情報探索法指導,領域4:情報整理法指導,領域5:情報表現法指導)ごとの情報量の割合を算出し,全体の傾向を分析した。
② 主成分分析により教材のグループ化を行った。
③ 情報量別の分析として,情報量が少ない項目を抜き出してその傾向を分析した。
(3)得られた(予想される)成果
① 図書館利用教育の教材は,情報探索法の部分が質量ともに圧倒的に多い。情報探索ツールの紹介と具体的な利用方法についてのマニュアル的なテキストである。特に自然科学系はその傾向が著しい。
② ほとんどの教材には,図書館利用教育の理念や概念たるものがない。図書館利用教育がなぜ必要であるのかという意義や評価まで述べているものが少ない。本発表者の3人は現職の図書館員であるが,今回の分析および業務経験から,図書館利用教育がなぜ必要なのかという図書館員の役割意識の明確化が必要であるとの結論に達した。
③ 慶應義塾大学KITIEは,オンライン・チュートリアルの教材である。今回の分析結果から,他の教材と比較して,評価の内容を含むなど,独自性を有していることが明らかとなった。