【2005研究大会】ILLログによる図書館関係構造の分析:大規模データに対する対応分析とクラスター分析
◆所属 三重大学人文学部,千葉大学文学部(宮埜・竹内・土屋)
◆発表題目
ILLログによる図書館関係構造の分析:大規模データに対する対応分析とクラスター分析
◆発表要旨
(1)研究目的
平成4年4月に運用が開始されたNACSIS-ILL(学術情報センター・図書館間相互貸借システム)は,平成15年度末には参加機関数が917に達したように,日本の学術関連の図書館のほとんどを網羅するまでに至った。本研究の目的は,NACSIS-ILLの利用統計(複写および現物貸借の依頼・受付)データをもとに,わが国における学術情報流通の全体的な構造とその変化を把握することにある。
(2)研究方法
最初に,平成6年度から平成15年度までの利用統計データ全件の基本統計を作成した。次いで,平成11年度から平成15年度の利用統計データから,すべての年度に出現している機関分を抽出したうえで,それぞれの機関間の需給(依頼・受付)頻度をカウントした。得られた需給頻度データの対応分析を行った結果,特異値のスクリープロットから次元を決定することは困難であり,次元的な解釈ではなく,クラスターによる解釈を行うことが適当であると判断された。この結果をもとに,k-means法によるクラスター分析を行い,クラスターを抽出した。さらに,クラスター間の需給関係を把握するために,クラスター間の需給頻度をカウントした。
(3)得られた(予想される)成果
NACSIS-ILL全体の処理件数は増加しているが,これは平成11年度以降に参加した機関の処理件数の増加によるものである。すなわち,平成11年度より継続的にNACSIS-ILLを利用している機関の処理件数は単調減少しており,特に,平成14年度から平成15年度にかけての減少が著しい。電子ジャーナルの購入におけるBig Deal契約によって,多くの大学図書館で利用可能なタイトル数が増大していることが影響を与えたものと考えられる。
クラスター分析の結果,需要側,供給側の双方で20を超えるクラスターが見出された。クラスターを決定する要因としては,1)機関の設置種別(国立,私立,公立など),2)機関の対象分野(文系,理工系,農学系,医学系など),3)地域(北海道,関東,関西,中部,九州など),4)大学グループ(近畿大学など)が想定された。また,各クラスターにおける需給頻度の分析から,クラスターにはさまざまなタイプがあることがわかった。この結果は,NACSIS-ILLによる全国的な学術情報流通が,具体的にどのように構成されてきたかを示すものであり,今後の研究,および学術情報流通体制整備のための基礎となるものといえよう。