【2005研究大会】公共図書館利用者の知識共有メカニズム
◆所属 慶應義塾大学文学部,メディア教育開発センター,明治大学文学部,学習院女子大学国際文化交流学部,玉川大学教育学部,筑波大学大学院図書館情報メディア研究科,Palo Alto Research Center
◆発表題目
公共図書館利用者の知識共有メカニズム
◆発表要旨
(1)研究目的
公共図書館の利用については,これまでは利用者の人口統計的な属性や,図書館のサービスにあわせた利用目的や資料タイプなどに関する計量的な研究が中心で,特定の利用者コミュニティに着目した研究や,情報利用研究の成果として得られたモデルや理論を適用した研究は,少なくともわが国にはない。しかし,従来のような研究の視点と調査手法では,図書館利用の量を追うことはできても,今日課題とされているような質を追求するサービスが,利用者に対して持つ意義を解明することは難しいように思われる。
本研究では,「公共図書館の利用者が,図書館で得た知識をどのように活用しているのか」という課題について,特に利用者が得た知識を他人と共有するプロセスに着目し,公共図書館が提供する情報が,利用者個人の情報世界を媒介として,その所属するコミュニティに影響を与えるメカニズムを考察することを目的としている。
今回の発表では,理論的課題の整理と,研究のフレームワークを提示する。併せて,ビジネス支援サービスを例に,研究の方向性について若干の示唆を与えてみたい。
(2)研究方法
理論的課題の整理としては,情報利用研究におけるWilsonなどの情報行動モデルの適用可能性の検討,組織内での情報交換と知識共有メカニズムに関する,状況論を主とした既往研究の検討,などがあげられる。この理論的課題の整理に基づいて,研究のフレームワークを検討する。大枠としては,1.課題の整理をもとに,図書館利用と知識共有に関する仮モデルを構築する,2.利用者に図書館利用体験を語ってもらい,それをもとに,3.仮モデルを修正・展開することにより,4.公共図書館利用により得た知識の共有メカニズムに関するモデルを構築する,といったフレームワークとする予定である。
(3)予想される成果
公共図書館の利用の分析に,情報利用研究,および,状況論的な情報システム研究の成果を導入することが期待される。従来の情報利用研究では,個人の探索行動に焦点があてられており,探索の帰結や,結果の共有といったことは論じられてこなかった。他方,情報システム研究では,企業等の組織における知識共有についてもっぱら論じられ,図書館のような開放系のシステムは対象とされることがなかった。両領域の知見を合わせることにより,公共図書館のような開放系のシステムによる知識共有について,新たな視点から論ずることができるようになるものと期待される。さらに,公共図書館の効果を理解するための,数値以外の新たな方法を提案することもできるだろう。