【2005研究大会】公共政策としての公立図書館:論点の整理
◆所属 亜細亜大学非常勤講師
◆発表題目
公共政策としての公立図書館:論点の整理
◆発表要旨
(1) 公立図書館はなぜ税で運営されるのか?について,経済学を論拠とする公共政策理論を参照しながら理論的に検討し,論点整理をする。
(2) 政治理論あるいは公共経済学など関連する分野の文献調査。また,1980年代の米国で行われたWhiteやVanHouseらによる公立図書館の公的支援に関する論争を参照する。
(3) 第一に,論証の手続きについて論じる。税金を財源とすることが妥当かどうかは,次の二つのケースに該当するかどうかで判定される。一つは,公立図書館が無い場合と存在する場合を比較して,後者の方が社会全体の満足が高まるケース。もう一つは,公立図書館が存在しないと仮定したとき,社会的に合意された水準の平等を達成できないケース。また,論点の整理として,最近しばしば使用される「公共性」なる概念は必ずしも図書館が公的機関であるよう要求するものではないことを指摘し,さらに図書館の運営効率を改善する議論と図書館への公的支援の妥当性についての議論は別レベルの問題であることも加えて指摘する。
第二に,図書館が補完しているとされるサービス領域において,市場の失敗が起こっているかどうかを検証する。失敗があるならば,図書館の存在は先に示した「社会的満足が高まるケース」に該当し,その公的支援の正当性の論拠が導かれるだろう。結論としては,書籍の提供など図書館のサービス領域において,市場の失敗を導くことは困難である。市場の失敗を導くには,書籍など情報資源が一般の商品と異なり特別な財であるとみなす操作が必要となる。
第三に,図書館サービスは社会的不公平を是正する再分配政策とみなしうるかどうかを検討する。伝統的には社会教育論,近年では情報アクセスの保障機関論が,公立図書館サービスを再分配政策とみなしている。だが,利用実態から見て再分配政策だと主張するのは難しいということはしばしば指摘される事実である。たびたび繰り返される課金についての議論もこの文脈にあり,先に見た社会効率の議論と結びつけるのは適切でない。また,情報アクセスの保障機関としてみても次のような困難がある。情報から阻害された弱者を,他の再分配政策と重ならない独自の存在として定義することが難しい。結果として図書館の政策的優先順位を低める結果となるだろう。しかしながら,労働技能を高めるワークフェア国家路線においては,公的扶助を削減する一方での対策として,独学推進機関として存在理由を与えられうるだろうことを示す。