三田図書館・情報学会:Mita Society for Library and Information Science

【2005研究大会】公共図書館利用行動による気分の改善

◆氏名 山本那美,植松貞夫
◆所属 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
◆発表題目 
 公共図書館利用行動による気分の改善
◆発表要旨
(1) 研究目的
 様々な場所を利用し行動することは,人間の心理に様々な影響をもたらす。各種の場所の利用による心理的影響を調査した先行研究では,大学生にとっては「図書館」が他者の存在を気にせず行動できる「専有空間」であり,「課題への集中」をもたらすということが示されている(泊・吉田, 1999)。本研究は,様々な世代が多様な利用行動をとる公共図書館という場所が,利用者の心にもたらす有用な影響を,利用行動により発生するポジティブな「気分(mood)」として捉えることを目的とする。また,生じたポジティブな気分が,公共図書館への評価に正の影響を及ぼす可能性も合わせて検討する。なお,心理学において「気分」とは,比較的穏やかで原因が明確には意識されない持続的な感情状態を指す。
(2) 研究方法
 公共図書館利用時の気分の実際を自由記述式の予備調査により把握した上で,2004年3月に我孫子市民図書館利用者272名および守谷中央図書館利用者262名に質問紙調査を行った。質問紙は以下の構成であった。Q1:性別と年齢 Q2:図書館利用頻度 Q3:図書館利用時間 Q4:利用行動についての質問(16項目5件法) Q5:利用時のポジティブな気分についての質問(26項目7件法,予備調査の代表的記述を基に作成)Q6図書館への好意・満足度についての質問(3項目5件法)
(3) 得られた成果
 我孫子市民図書館利用者および守谷中央図書館利用者の回答傾向に統計的に有意な差が見られないことを確認し,全回答者のデータをプールして用いた。回答者は30から50代,月に数回来館し,30分から1時間利用して帰る人の割合が高く,全体の半数を超えた。因子分析により,利用行動については「調べ物・勉強」「職員へのレファレンス」「ブラウジング・滞在」「貸出」と解釈される4因子を,利用時のポジティブな気分については「集中」「知的好奇心」「リラックス」「気分高揚」と解釈される4因子を抽出した。さらに重回帰分析を行い,利用行動と利用時のポジティブな気分,図書館への好意・満足度の関係性を検討した。結果,「ブラウジング・滞在」行動は全てのポジティブな気分を高め,「リラックス」気分は図書館への好意・満足全てに正の影響を及ぼすことなどが明らかになった。次に,「来館頻度低群」(年数回以下来館の78名)「来館頻度高群」(週数回来館の83名)の差異を見るため,各々に同様の重回帰分析を行った。両群は「ブラウジング・滞在」行動がポジティブな気分の発生に与える影響が大きい点で共通していた。主な相違は,頻度低群では利用行動に影響を受けるポジティブな気分は少ないが,生じたポジティブな気分が好意や満足に影響を与えやすいこと,頻度高群では利用行動の影響で生じるポジティブな気分が多いが,図書館への好意や満足はポジティブな気分に影響を受けにくいことであった。

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