【2005研究大会】アーカイブズ編成・記述の枠組みとしてのシリーズ・システムをめぐる基礎的検討
◆所属 慶應義塾大学大学院
◆発表題目
アーカイブズ編成・記述の枠組みとしてのシリーズ・システムをめぐる基礎的検討
◆発表要旨
現代の公文書や前近代の古文書をはじめとするアーカイブズは通常,1点だけで成立しているのではなく,複数点の資料が有機的な構造を形成するという特徴がある。そのため,アーカイブズの組織化においてはその構造を把握し,復元するプロセスとしての「編成」作業が,記述とともに必要であるとされて
いる。1990年代以降,アーカイブズ組織化のための指針として,「国際標準記録史料記述:一般原則(ISAD(G))」等が開発され,それらの適用が各国で進んでいる。
この理論的基盤となっているのは,アーカイブズはそれを作成した機関の組織階層を反映した形で編成されねばならない,という「出所原則」であった。これに基づきISAD(G)は,イギリスにおける伝統的な編成・記述の理論と技法に主に立脚して,フォンド,シリーズ,ファイル,アイテムという4階層のアーカイブズ編成モデルを提示している。
一方でオーストラリアにおいては1960年代以降,一般に「シリーズ・システム」と呼ばれる独自の編成システムが提唱されてきた。これはアーカイブズを多階層ではなく記録を作成した業務機能ごとにシリーズを形成させて把握しようというものである。この概念を基礎とした国内標準の開発も進んでいる。
シリーズ・システムの考え方については近年,1) 「出所原則」の新たな解釈である,2) アーカイブズ作成機関の組織改編に容易に対応できる,3) 電子メディア利用を前提としたアーカイブズの組織化を考える際に有力な選択肢を提供する,といった可能性が指摘され,国際的にも注目を集めつつある。しかし従来,日本のアーカイブズ界では国際標準であるISAD(G)が準拠すべきモデルとして受容されてきたが,シリーズ・システムについてはほとんど紹介されず,適用事例も国内には存在しない。
シリーズ・システムの有効性について検討する際には,それがオーストラリアというコンテクストをこえて他の国でも準拠可能なモデルであるかを実践的に論じる必要があるが,本研究においては,そのための基礎的調査として,同システムの理論的枠組みと若干の適用例について検証を行うことを目的とする。
まず,文献レビューによってシリーズ・システムが成立した要因とその理論的基盤について概観する。次に,ISAD(G)の構成要素との比較によってシリーズ・システムの特徴を主に「実体」「関係」「属性」の3点から明らかにする。さらに,発表者らが実施するオーストラリア国内での現地調査によって,国立公文書館のCommonwealth Record Series (CRS),ビクトリア州立文書館のVERS等といったシリーズ・システム適用例の仕様を実見し,それらへの評価をインタビュー形式で聴取する。これらの結果から,同システムの適用を試みる際に求められる要件を明らかにする。