【2005研究大会】学校図書館における読書記録の管理方法に関する調査-貸出記録の消去をめぐる問題を中心に-
◆所属 沖縄国際大学総合文化学部日本文化学科
◆発表題目
学校図書館における読書記録の管理方法に関する調査-貸出記録の消去をめぐる問題を中心に-
◆発表要旨
(1) 研究目的
個人情報保護法の本格施行により,図書館利用者の個人情報の取り扱いに注目が集まっている。個人情報の一つである貸出記録の流出や目的外利用を防ぐための最も効果的な管理方法は,貸出記録をその用途が終了した時点,つまり返却と同時に消去することであると考えられている。また,貸出記録を消去することは,個人情報保護にとどまらず,利用者の「読書の自由」を保障する上でも重要な対策であると言われており,日本図書館協会の「貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準」(1984年)の中でも,「貸出記録は,資料が返却されたらできるだけすみやかに消去しなければならない」ことが1つの基準として挙げられている。
しかし,こうした考えがある一方で,全ての図書館(図書館員)が貸出記録の管理方法について,高い意識を持っているとは言い切れない状況もある。特に,専任・専門の図書館員が長く配置されてこなかった学校図書館では,(一部の高校図書館を除いて)貸出記録の消去については,本格的に議論された記録がない。現在の貸出記録の管理方法を調査し,その問題点を考察することは,「個人情報保護」と「読書の自由の保障」を前提とした学校図書館活動のあり方を検討する上で,重要な研究課題の一つであると考えられる。
(2) 研究方法
発表者が在住する沖縄県は,高校図書館だけでなく,小中学校の図書館にも専任・専門の学校司書を配置してきた数少ない自治体であり,現在も400名を越える学校図書館員が勤務している。本研究では,2004年3月~2005年8月までに,沖縄県内の学校図書館に勤務する図書館員(学校司書)約100名に対して,個別に聞き取り調査を実施し,①貸出記録の管理方法と②貸出記録の返却後の保有状況を明らかにするとともに,③貸出記録の返却時の消去と④学校図書館における望ましい貸出記録の管理方法についての意見を確認した。
(3) 得られた(予想される)成果
聞き取り調査の結果,以下の3点が明らかとなった。
1) 全ての小中学校図書館において,貸出記録は特に返却後も長期間に渡って保有されている。高校図書館については,一部でブラウン式が導入されているが,プライバシー保護について問題意識を持つ1人の学校図書館員が導入しているにすぎず,全県的には小中学校と同様に,返却後も貸出記録は保有されている状況である。
2) 沖縄県の小中学校では,経済的貧困と国語力不足を背景として,学校ぐるみで読書指導に熱心に取り組むところが多く,目標冊数の設定や通知表への貸出冊数の記載など,学校教育との結びつきが強固であるため,貸出記録を学校図書館員の判断だけで消去することが難しい状況にある。その一方で,図書館員の専門性を発揮する場が,読書指導への協力という教育的な部分にあると考えられており,貸出記録の管理にあるとは考えられていない状況も確認できる。
3) 高校では,小中学校とは異なり,学校ぐるみでの読書指導は行われておらず,教育と貸出記録の結びつきは弱い。調査を開始した時点では,貸出記録を保有することの問題意識は低い状態であったが,聞き取り調査による対話を重ねる中で,貸出記録を消去する必要性について関心を持つ図書館員も増えており,現在は,貸出システムのリプレイスにあたり,貸出記録を返却後も保有するべきか,ということが議論されている。
今後は,以上の調査結果をもとに,学校図書館における望ましい貸出記録の管理方法に関するガイドラインを作成し,地区ごとに定期的に開催される司書研修会等を通じて提案するとともに,その具体的な実践方法につていも考察していく予定である。
(研究発表に間に合えばこの議論の経緯も報告する予定)