【2005研究大会】フィクションの「面白さ」と読後の「感情」との関連
◆所属 慶應義塾大学大学院文学研究科
◆発表題目
フィクションの「面白さ」と読後の「感情」との関連
◆発表要旨
学校図書館では生徒への読書指導を積極的に実施することが求められており,生徒の読書ニーズを把握し的確に応答することが必要である。生徒は「何か面白い本ないか」「悲しい本が読みたい」といった,図書から得られる面白さや感性的影響を重視した要求を示すことが多い。このような読書ニーズに応えるためには,従来の書名,著者名などを元にした検索システムだけでなく,感情を示す語(感性語)から図書を探せるシステムが必要となる。感性語からフィクションを検索するシステムとしては,英国のwhichbookが既に存在している。日本においても同様のシステムが求められ,試作品が作成されつつある。しかし,図書に面白さを求める場合,各種の感情が検索項目となっているシステムでは検索が煩雑になりかねないとの指摘がある。面白さには様々な感情が含まれているためと考えられる。さらに,検索結果の表示順をもっと効果的に行うような重みづけの精緻化の必要性も指摘されている。これらの解決のためには,面白さと感情との関連性を明らかし,索引語となる感性語に対して面白さを考慮した重みづけをするなど,面白さからのアプローチを強化することが有効と考えられる。
そこで本研究では,本を読んで感じる面白さと感情との間にどのような関係があるのかを明らかにすることを目的とする。研究方法は質問紙調査とし,司書教諭養成のための科目「読書と豊かな人間性」を履修している大学生に対するWeb上での調査を2004.10から2005.7まで実施した。調査内容は,自分が読んだフィクションに関してのテーマや内容,面白さの程度,読書後に受けた感情の程度などである。調査に利用した感性語は,whichbookに用いられている12対の感性語に,日本で必要とされる2種類を加えた14対とした。なお,面白さの程度は5段階評価,感情の程度は各感性語対に対して7段階の評価とした。収集したデータの分析は,面白さと感情との相関関係を明らかにするだけでなく,図書が持つ要因(テーマや内容など)と,読者が持つ要因(性別など)とを変数として,これらの要因が面白さと感情の関係にどのような影響を及ぼすのかについても検討を行う。
分析した結果からは,面白いと感じる図書から喚起しやすい感情,図書の内容の違いや性別などによる個人差が面白さと感情に与える影響,などが明らかになろう。これらが明らかになることで,感性語を用いた検索システムへの重みづけや,「面白い本はないか」といった漠然とした読書ニーズに対しての対応策を考えることが可能となる。