三田図書館・情報学会:Mita Society for Library and Information Science

【2005研究大会】特別支援に際した学校司書の意識と対応の現状:学校職員との相談や連携に注目して

◆氏名 松戸宏予
◆所属 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課程
◆発表題目 
 特別支援に際した学校司書の意識と対応の現状:学校職員との相談や連携に注目して
◆発表要旨
(1) 研究目的
 現在,日本の通常学校においては,LD,ADHD,軽度知的障害,高機能自閉症など特別な教育的ニーズをもつ児童生徒が在籍しており,学校図書館へ来館する児童生徒は多様である。通常学校の図書館では多様な児童生徒との対応は,日常の図書館業務の一環を成すものでもある。しかし,特別な教育的ニーズをもつ児童生徒との対応に際しての,実態はどうなのだろうか。教師や養護教諭などの悩みや葛藤に関する研究は,これまで教育心理学分野で成されてきているが,学校図書館担当者に焦点をあてた調査研究はほとんど取り上げられてこなかった。本研究においては,学校司書が特別な教育的ニーズをもつ児童生徒への意識と対応の現状を,学校職員との相談や連携の視点から明らかにすることを目的とした。
(2) 研究方法
 調査方法は学校司書を対象に郵送式による選択形式の質問紙調査である。対応の困惑度や実際の現状の程度を問う質問群の回答は5件法(1まったくない~5かなりある)で評定を求め,評価している程度が高い方から5~1点を与え,間隔尺度とみなした。設問は4つの質問群で構成される。①対応に関連した問題,②研修,③相談,④連携である。①学校司書の問題の認識度や司書が抱える問題について,②研修参加の状況と,研修に参加できない場合の対処について,③学校司書が相談する相手と相談する視点について,④連携の実際と可能性についてである。調査対象は関東と関西地域の14の自治体に所属する学校司書とした。502校中209校より回答を得る(41%)内,欠損2。調査時期は2005年5月に行った。 
(3) 得られた成果
 ①対応の問題について 学校司書になる以前に,特別な教育的ニーズをもつ児童生徒と個人的な接点をもった者は3割弱であったが,学校司書として学校図書館に関わりを持つようになってから,8割が特別な教育的ニーズをもつのではないかと思われる児童生徒と対応したことがある。また,実際に約7割が意識をもって個別の配慮を行っている。しかし,特別な教育的ニーズをもつ児童生徒に個に応じた配慮や工夫(特別支援)を行った者ほど,対応の困惑を感じている(r=.450,p<.01)。 また,対応の困惑の程度を被説明変数として,困惑する場面17項目を説明変数として重回帰分析を行ったところ,「対応に時間がとられ,ほかの事務仕事にさしつかえる」,「何気なく注意したつもりでも,突然怒り出し,対応に戸惑った」「児童生徒が図書館にいる間はなかなか図書館を空けにくい」の3つが有意に選び出された。(R2乗.306, F(3,148)=23.168,p<.01)特別支援に際した問題の共通因子では,因子分析から「支援の葛藤」,「拘束感」,「不十分な連携」が挙げられる。
 ②研修と連携について 特別支援教育に関連した構内研修の参加可否の割合は,半々であった。しかし,研修参加の可否は,連携の程度にも関わる。つまり,学校司書が研修に参加できる学校は,連携がとれている傾向にある。確認として,悩みの軽減の程度を被説明変数として,「連携の程度」と「研修参加の可否」を説明する要因として重回帰分析を行ったところ,「研修参加の可否」は除外されたが,「連携の程度」は有意であった。(R2乗.067, F(2,161)=6.821,p<.01)なお,連携の程度によって,学校司書の対応の変化に差があった。
 ③相談する相手  相談する相手は,養護教諭,スクールカウンセラー,特別支援教育コーディネーターなど評価をしない職員に相談する傾向がある。また,評価をしない職員群,学級担任群,司書教諭群,管理職群では,相談する理由の傾向がそれぞれの群に見受けられた。実際,相談相手によって,悩みの軽減度は異なった。評価をしない職員群に相談した場合は,悩みは軽減したが,他の職員群(学級担任,司書教諭,管理職) に相談した場合は悩みは軽減していなかった。
 ④今後の連携 支援の推進に対しては,学校司書の児童生徒の理解背景や,職員との連携を意識する回答の割合が約6割を占めた。職員との連携で,場面を伝える情報交換が5割を占めている。
以上の結果から,特別支援に際しての対応の場合,学校司書一人では対処できない問題が多い。しかし,校内研修や学校職員間の連携によって,学校司書が抱える悩みを軽減できる場合もあるので,管理職や行政に研修の手だての見直しや,学校教職員に対する意識を働きかけていくことが大切である。

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