【2005研究大会】『玉海』芸文部の書誌情報組織法について
◆所属 筑波大学図書館情報メディア研究科
◆発表題目
『玉海』芸文部の書誌情報組織法について
◆発表要旨
王応麟編の『玉海』二百巻は,いわゆる類書の一つである。類書は項目を分け,それに関係する古典の記事を集めた,引用で構成した項目別百科事典というべき書物であり,大きく分けて詩文を作るにあたって,ある言葉の典拠を検索するために作られたものと,科挙の試験を受けるための基本的知識を提供する目的で作られたものとがある。『玉海』は後者のためのものであり,天文・律歴・地理・帝学・聖文・芸文・詔令・礼儀・車服・器用・郊祀・音楽・学校・選挙・官制・兵制・朝貢・宮室・食貨・兵捷・祥瑞の21門からなっている。今回取り上げるのは,「芸文」の部分で,「芸文」においては,四部分類に基づき,各項目の概要を述べた部分(小序)に続き,項目に掲げた学術の発展を様々な書物の記事の引用によってたどった部分と,『漢書』芸文志などの書目に現れる目録記述の引用とを組み合わせて,目録学において重視されてきた「辨証学術,考鏡源流(学術の大要を明らかにし,学派の流れをたどる)」という機能を,明快な形で実現させている。この部分は,中国目録学の上でも以前から注目されてきた。例えば内藤湖南は,玉海では当時に残った本については,その内容の大体を知らせるが,むしろその本のできるまでの他の本との関係に注意して,亡びた本との内容の関連をつけ,歴史的な学問の道筋が通るように考えたのだと評している。この発表では「芸文」の具体的な構成について考察していきたい。
(2)研究方法
ここでは,この「芸文」のうち,経の部分の「三礼」,「春秋」そして史の部分の「正史」,「雑史」などを取り上げて,学術史をたどった部分および書目の部分について,引用資料の原著の記事や原書目の記述とを対比し,著書の源流をたどる上において,どのような記事内容を取り上げているのか,また書目の記述内容・排列についてはどのような再構成を行っているのか,そしてその目的はどこにあるのかといったことについて論じていきたい。
(3)予想される成果
従来も,王重民氏などによって,「芸文」ではどのような内容が記述されているかということについては論じられているが,具体的な構成について詳細に分析してはいないので,その点については,「芸文」に見られる書誌情報の組織化の特色をより明らかにできる。また倉石武四郎氏は,王応麟が「芸文」で試みたような学問は,鄭樵が佚書を目録に入れ,それによって学問の興廃を考えたことにその濫觴があると指摘しているが,この鄭樵の目録学理論との関わりについても考察を加えたい。