2025年度研究大会 プログラム
日時:2025年11月8日(土)
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館6階 G-Lab(オンライン併用)
申し込み:Peatix(必ず事前の参加申込をお願います)
セッションI
- 111:00
文献に見る少年院における読書指導の実践発表要旨
少年院では矯正教育の一環として読書指導が実施されている。これまでの少年院における読書指導に関する研究は,施設を対象とした質問紙調査,特定の時代に焦点を当てた文献調査,特定の施設における事例研究であり,少年院における読書指導の実践を文献から網羅的・横断的に分析した研究は行われてない。そこで,少年院において読書指導がどのように実践されているかを明らかにすることを目的に,法務教官による読書指導の事例報告及び論考81件を対象として,文献の時代ごとの変遷と結びつけながら分析を行った。分析の結果,少年院における読書指導が矯正教育の「生活指導領域」に位置付けられ,「処遇段階別」に実施される事例が多くを占めた。読書指導に関わる活動の観点からは、事例を扱う文献は「個別指導」,「集団指導」,「環境整備」,「読書推進活動」に分類できた。また,他の指導方法と組み合わせて実施されていることも扱われていた。 - 211:20
米国公共図書館によるホームスクール支援の現状とその役割発表要旨
米国におけるホームスクールは州法により合法化されており、近年では学校教育環境への懸念やCOVID-19の影響を背景に、その人口が増加している。こうした中、公共図書館においてもホームスクール支援の取り組みが展開されており、専用プログラムやリンク集、リソースセンターの提供など、多様な支援が行われている。先行研究では、特定地域における支援の充実度を分析するものや実践事例の報告はあるものの、支援の具体的内容やその背景、さらに公共図書館が果たす役割については十分に検討されていない。本研究では、米国公共図書館が提供するホームスクール支援の詳細を調査し、公共図書館が果たしている役割と意義を考察した。その結果、公共図書館は、ホームスクールを行う子どもたちに対して、学習や交流の機会を提供するとともに、多様な教育機会の保障に寄与し、地域における教育支援の重要な拠点の一つであることが明らかとなった。 - 311:40
英米における視覚障害者への情報サービス提供のための法制度および政策等の歴史的変遷発表要旨
本研究の目的は,視覚に障害のある人びと(以下,視覚障害者)への情報サービス提供の体制について,英米におけるその歴史的変遷を明らかにすることである。この種のサービス提供には,法制度や図書館界全体での考え方が重要な役割を担うわけであり,その歴史を概観する。具体的には,19世紀後半から2025年までを対象に,情報サービス提供に関わる主要な法制度および政策等を,文献により調査した。時代を4つに区分して整理したところ,情報サービス提供体制は戦争被害者救済や慈善活動から,社会的包摂や権利保護へ,さらにはデジタル環境と国際標準に基づく制度化へと連続的に転換したことが確認された。英米両国はWCAG等に準拠したデジタル・アクセシビリティと,マラケシュ条約等に基づくアクセシブルな資料の国際交換という二軸で収斂する一方,イギリスは社会的包摂と機会の平等,アメリカは個人の権利保護を規範的基盤としている特徴が見出された。 - 412:00
行政関係者による1950年制定図書館法の解説発表要旨
図書館法研究には1950年制定図書館法に対する評価の確定が必要である。その第一段階として、1945年~89年に行政関係者が発表した図書館法解説の内容を収集・分析する。行政関係者には文部省の立案担当者と地方公共団体の行政職員(行政法学者を含む)がある。前者は、法律の歴史や関連法規に詳しく、制定時の問題点に触れている。後者は、制定後生じた実務上の問題点を指摘している。前者では西崎恵等の解説、後者では宇井儀一、武田英治、浅見勝也、稗貫俊文等の意見がある。両者の比較対照によって図書館法の問題点が明らかになる。その結果、前者では、法律の制定後に図書館関係者が対応すべき事項が示されていること、後者では、補助金の条件・性格、図書館長の人事、都道府県立図書館の役割等に関する明確な疑問が示されていることが明らかになった。今後、この結果をそれ以後の図書館法関係文献と比較し、成果が活用されているかを検討したい。
13:30 学会賞授賞式
セッションII
- 513:40
ワークプレイスにおける知識の共有:3つの研究領域の関係と課題発表要旨
生産年齢人口減少に伴うベテランの退職や生成AI等のテクノロジーの進化を背景に,企業ではベテランがもつ知識やノウハウを共有するニーズが高まっている。ワークプレイスにおける知識の共有に関わる研究は,主に知識創造理論,情報行動,専門的知識の共有(Sharing expertise)の研究領域で分散してなされているが,それぞれの研究領域間の言及はほとんどされておらず,横断的な形での体系的な整理もなされていない。そこで本研究では,ワークプレイスにおける知識の共有に焦点を当て,これら3つの研究分野における研究を取り上げ,どのような研究がなされているのか,またそれらがどのような関係にあるのかを整理する。そこから,ワークプレイスを取り巻く変化も踏まえながら,ワークプレイスにおける知識の共有に関して,今後必要とされる研究の方向性を明らかにする。 - 614:00
公立図書館における地域資料としてのエフェメラへの取り組み:小平市立図書館と宝塚市立図書館の事例に着目して発表要旨
地域の近現代資料の保存と活用は図書館,博物館,文書館に共通する課題であり,近年は公立図書館が住⺠協働により既存の出版物を超えて地域の資料や情報を収集,記録する取り組みを行う例が見られる。本研究はその中でも,通常は保存が考慮されない短命な資料であるエフェメラに対する取り組みの現状や課題,他館でも展開可能な手法を検討する。キーワードによる文献調査から図書館等が地域資料としてエフェメラを収集した107 件の事例を抽出し,国内の現状を概観した上で, 2 つの特徴的な事例を詳しく分析する。平時からエフェメラの収集を行い,自治体史においてエフェメラを積極的に活用した小平市立図書館の事例から,公立図書館がエフェメラに取り組む意義等を考察する。また,地域住⺠が小冊⼦を制作する「みんなのたからづかマチ文庫」の取り組みを行う宝塚市立図書館の事例から,公立図書館が地域住⺠の中にある記憶や情報を可視化する手法等について検討する。 - 714:20
高等学校のキャリア教育における学校図書館員と教員の協働:プログラム運営組織に着目して発表要旨
2018年告示の高等学校学習指導要領では,学校図書館員も組織の一員としてキャリア教育推進に取り組む必要性が示されている。しかし,キャリア教育における学校図書館員と教員の協働事例の分析,活かされる学校図書館員の専門性の検討は十分になされていない。本研究では,キャリア教育プログラムの教育効果を高める学校図書館員と教員の協働の在り方,協働実現の要件を明らかにすることを目的に,日本の高等学校11校で学校図書館員・教員を対象にインタビュー調査を実施した。各校の結果の比較により,多様な立場の教職員による組織で運営されるキャリア教育プログラムでは,学校図書館員の運営組織における立場が,協働開始までの心理的・業務的負担,準備段階の情報共有や提案のしやすさに関係していることがわかった。また,協働の展開と共に運営組織内の協働相手が増えることで,学校図書館員の関与の範囲と深度が増していく過程が明らかになった。 - 814:40
中学校社会科地理的分野における探究と学校図書館:文献の検討から発表要旨
日本では,各教科の見方・考え方を反映させた探究型の授業の設計が求められている。こうした授業における学校図書館の活用に着目すると,司書教諭や学校司書が教科教諭の依頼に応じて資料提供等を行う事例が報告されているが,個別の教科ごとの実践を対象としたものは少ない。本研究では,中学校社会科の地理的分野の授業を扱う文献において「探究」がどのように論じられ実践されてきたのかを,社会科における知識伝授や探究学習の類型に基づいて整理した。その結果,探究型の地理の授業は分野に固有の学習課題を教師が適切に設定し,生徒が地理的技能を活用できるような授業が設計されていることが明らかとなり,授業展開のバリエーションも見られた。教科教育を対象とした文献の検討を通して,教科に固有の「探究」の方法を理解し授業設計に関わる司書教諭や学校司書のあり方や,教科教育における探究と学校図書館の議論の接続について考察する。 - 915:00
学校における電子書籍サービスおよび公共図書館との連携に関する実態調査発表要旨
近年、学校において電子書籍サービスを導入する例は増加傾向にあるものの、いまなお多くの学校では未導入であるといえる。文部科学省委託調査『令和4年度子供の読書活動の推進等に関する調査研究』によれば、一部又は全部の学校に電子書籍サービスを導入する自治体は、2020年の2.0%から二年後の2022年に8.5%であったことが報告されている。また、電子書籍サービスの導入方法にもさまざまな選択肢があり、必ずしも標準的な実施形態があるという訳ではない。そこで本研究では、(1)学校単独で電子書籍サービスを導入している場合、(2)自治体レベルで一括して公立学校に電子書籍サービスを導入している場合、(3)公共図書館が自治体内の学校を通じて全児童生徒に電子書籍サービスの利用ID・パスワードを発行する場合といった実施形態の違いによって、提供されるコンテンツや利用のされ方にどのような相違点や類似点があるのかについて実態を明らかにする。
セッションIII
- 1015:40
公立図書館の観光資源性に関する探索的研究発表要旨
観光客の中には、地域の歴史や文化を深く知りたい、地元住民と交流したいと望む者もいる。公立図書館は地域資料や情報を収集・提供する機能を持ち、観光資源としての可能性が注目されている。先行研究では、図書館自体の観光目的化、魅力的なコレクション、地域情報の発信、外部連携による誘客などが示されている。本研究では、2021年7月から2025年9月にかけて発表者が訪問した日本全国157館の公立図書館の記録をもとに、図書館の観光資源性を分析した。結果、建築物自体が観光対象となっていたのは11館、カフェ等の滞在空間を備える館は58館、貴重なコレクションや演出がある館は51館、地域文化や産業を紹介する館は32館であった。他施設や宿泊施設等との連携があるのは9館だった。図書館は「目的地」としてだけでなく、地域情報を通じて新たな観光を促す「出発地」としての可能性も示唆された。 - 1116:00
生成AIを用いたメタデータマッピングの効率的作成法:RDA-BIBFRAMEマッピングの作成試行発表要旨
メタデータスキーマのマッピング作成には多大な労力を通常必要とする。本発表では、作業支援ツールとして汎用的な生成AI(ChatGPT 5)を用いて、最新RDAエレメントからBIBFRAME(以下、BF)へのマッピングという、両者間に大きなギャップがある事例について、効率的な作成を意図し、次の手順で試行し評価した。1) RDA体現形のエレメントについて、その定義に基づき階層的(ただし、多重階層)に整列させ、加えて階層的な位置づけを表す「階層表現」を追加した。2) エレメントのラベル、定義文、階層表現を参照して、「意味的な分解表現」を人手で一定数のエレメントに対して付与した。それを正解データとしてChatGPTに渡し、未付与分に対して意味分解表現を作成させ、その後人手による点検と修正を行った(実験1)。3) RDAエレメントのマッピング先BF記述を、人手で一定数のエレメントに対して同定した。それを正解データとし、併せてエレメントのラベル、定義文、階層表現と、BFクラスとプロパティの定義ファイル、Relatorマッチング手順書をChatGPTに入力し、未作業分に対してBF記述を作成させ、その後人手による点検と修正を行った(実験2)。この際に、前記の意味分解表現を加えて参照させる方式と、それを用いない方式の両者を試行し、前者の有効性を評価した。4) RDA著作エレメントからのマッピングについて、上記で確定した体現形エレメントのマッピング全体を正解データとして入力する方式を試行し、その結果の確認と評価を現在進めている。 - 1216:20
研究者ニーズを踏まえた中近世チベット文書に必要なメタデータ要素の特定発表要旨
近年、文化資源の電子媒体での公開が世界的に進展しているが、メタデータの整備は十分とは言えず、利用者のニーズを十分に反映していない事例も少なくない。様々な要因により公開が遅れてきた中近世チベット文書も例外ではない。一方で、その総数は相当規模に及ぶことが判明しており、今後の公開・利用に向けてメタデータの整備が課題となっている。そこで本研究は研究者のニーズを踏まえた中近世チベット文書のメタデータ要素を特定することを目的とする。まずチベット史に関する研究論文をScopusから収集し、所定の選定基準に基づいてトピック抽出論文67件を選定した。次に論文の抄録からトピックを抽出し、トピックに対応するメタデータ要素を特定し、トピック数をもとに研究者ニーズの高いメタデータ要素を明らかにした。それらを既存のメタデータスキーマやデジタルアーカイブと比較したところ、新たなメタデータ要素、特にチベット文書に特徴的なメタデータ要素が必要であることが明らかとなった。 - 1316:40
公立図書館が電子書籍・電子図書館サービスに想定する役割・機能に関する予備的検討発表要旨
本研究の目的は公立図書館において行われている電子書籍・電子図書館サービスについて,(1)図書館が考える役割・機能に関する情報,(2)電子書籍・電子図書館サービスの実態を把握するために必要と考える情報,(3)住民が求めている役割・機能を把握するために必要な情報を明らかにするための予備的な情報を収集し,その要素を明らかにすることである。研究方法として,はじめに電子書籍・電子図書館サービスを行なっている公立図書館の中から設置母体別に調査対象を数館ずつ選定した。次に調査対象館に対して半構造化インタビューを依頼・実施し,最後に得られた結果を分析することとした。調査は2025年4月現在電子書籍・電子図書館サービスを実施している都道府県・政令市・市町村立図書館を対象に依頼を行い,2025年8月〜9月に調査を実施した。その結果,インタビュー調査3件・文書による回答2件の結果を得た。得られた結果を基に,(1)・(2)・(3)に関する要素を類型化し整理した。今回の研究ではこれを発表する。
閉会
氏名の前に「*」が付されている発表者は,ベスト・プレゼンテーション賞の授与対象者(学生・大学院生の身分を明示した登壇発表者)です。受賞者は,プログラム委員の合議により選出されます。